第95話「肉を食おう」

「来たぞ」


「あそこですね」


 クーとエリは【フロンティア】の接近にさっさと気づいて、指で示す。

 サングラスをかけたラフな姿のアメリカ人男性四人組だった。


 とりあえず天王寺豪快さんよりは強そうだな……。

 

「君がアマテルか?」


 意外なことに流ちょうな日本語で話しかけられる。


「ええ。あなたたちが【フロンティア】ですね」


 向こうは満面の笑顔で、俺はぎこちない笑みで握手をかわす。

 みんな手がデカい、アメリカンサイズか。

 

「さっそく商談といきたいところだが、その前にいっしょにランチはどうだろう?」


 とリーダーらしき角刈りの男性に言われる。


「いいですよ。肉ですか?」


「もちろん!」


 アメリカ人たちはすごい笑顔で即答した。

 駅の近くにある「不意打ちステーキ」に案内して、メニューを見せる。


「ここなら肉を450グラムまで食べられますよ」


 と説明した。


 彼らがどれくらい食べるのかは知らないけど、全然物足りないってことはないと思いたい。


「おお! 日本人は小食で肉を食わないと聞いていたが、全然違うじゃないか!」


「やっぱり400グラムは食いたいよな!」


 【フロンティア】のメンバーは目を輝かせて盛り上がる。

 やっぱり肉か。

 

「いや、その話は間違ってないと思いますよ。食べたい人もいるというだけで」


「なるほどな! どこにでもユニークなやつはいるもんだ!」


 彼らは嬉々として450グラムを食べられるメニューに決める。

 迷いがないのはさすがと言うべきか。


 俺は普通にドリンク付きの日替わりランチにする。

 クーとエリが外で食べないのは珍しいことじゃない。


 そもそもこのふたり、100年くらいは飲み食いしなくても平気らしいし。


「一応ソークさんから欲しいものがあると聞いていますが」


「ああ。治癒系のアイテムについてだ。君が物品か情報を持っているなら交渉したい」

 

 料理が来る前に切り出すとリーダーらしき人が乗ってくる。


「いいですが、交渉というと?」


 何か交換条件でも提示されるのだろうか。


「君が欲しがるものを、果たして我々が持ち合わせているのか、という点を懸念している」


 リーダーのみならずほかのメンバーから陽気な笑顔が消えて真剣な雰囲気に切り替わる。


「うーん。俺だとおそらく国外のダンジョンに出入りするのは難しいので、将来その辺を協力してもらうというのはどうですか?」


 と俺は思いつきを提案してみた。


「……そんなことでいいのか? 君がアメリカのダンジョンに来てくれるなら、こちらは大歓迎だが」


 リーダーが信じられないものを見る目で確認してくる。

 

「まあ、俺が欲しいものはけっこうあるので、心配はいらないということですね」


 と言っておく。

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