第96話「俺なりに」

 【フロンティア】との顔合わせは何事もなく終わって拍子抜けだった。

 彼らはみんな明るくて気のいい男たちという印象を俺に残して去っていった。


「意外と話のわかる者たちだったようだな」


「ソークとやらの助言が効いていたのかもしれませんね」


 自宅に帰るやいなやふたりは言う。


 クーとエリも悪くない印象を持ったような口ぶりである。

 気に入らなければもっと容赦ない酷評をしているだろう。


「彼らのホームに行くときに手を貸してもらえるなら、心強いしね」


 未来のことはわからないけど、選択肢は多いほうがいいという話は聞く。

 俺なりに選択肢を増やしたりキープしたり、やっておきたい。


「わたしがいれば事足りると思うが?」


 クーがすこし不満そうな顔で言ってくる。

 

「土地勘ってやつは便利だからな。それに俺以外の人間の日常生活について、クーは詳しくないじゃないか」


「ぬぬぬ……」


 指摘したらめちゃくちゃ悔しそうな顔でうなりながらも、彼女は引き下がった。

 

「わたしたちもついて行っていいのですよね?」


 とエリに質問される。


「もちろん。俺に生活能力なんてないから、とくにクーは頼りにしてるよ」


 ひとり暮らしだと餓死はしなくても、かなりまずいことになる自信があった。


「そうだろう? 当然だな!」


 クーはたちまちうれしそうに表情を輝かせる。

 

「まあわたしもお供できるならいいですけど」


 エリのほうが総合的にできることが多いもんな。

 むしろ家事能力だけが低いと言えるかもしれない。

 

「ふん、わたしだけでもいいのだがな」


「あら。やまとを独り占めなんてずるいですよ」


 何やら両者の間で火花が散りはじめた気がするので、割って入る。


「ケンカするなら来なくていいぞ」


「ケンカなんてしない。なあ?」


「ええ。わたしたちは理想的なコンビとして、やまとのお役に立ちますよ」


 ふたりはたちまち笑顔をこっちに向けてきた。


「何と言う変わり身の早さ。やまとがいるかぎり安泰だな」


 とジャターユがぼそっと言ったが、ふたりには聞こえたらしい。


「お前が無事である保証はないがな」


「余計なことを言う愚か者に制裁を加えるなら、やまとも理解してくれるでしょう」


 何やらふたりは意気投合してジャターユをにらむと、鳥はガタガタ震え出して俺の背中に隠れる。


「今回はジャターユが悪いからかばい切れないなあ」


「そんな殺生な!?」


 ジャターユは絶望の声をあげた。

 

「だよな」


「やまとならそう言うと信じてました」


 とクーとエリはにこっと微笑む。

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