第93話「会ってみるくらいはいいかな」

「やまとに興味があるやつらがこの島国に入ったみたいだ」


 ある日の朝、ご飯を食べているといきなりクーがそんなことを言い出す。


「……俺にとって敵なのか?」


 それにしては彼女が落ち着いているので大丈夫だと思うが、念のためだ。

 

「違うと思うが、無礼者かどうかまではわからないな」


 クーがふっと鼻で笑う。


「無礼者なら思い知らせてあげましょうね」


 エリが優しい笑顔で言うが、ジャターユが素早く俺の背後に回る。

 べつに彼自身が標的にされるわけじゃないのに、こわいものはこわいらしい。


「周囲に被害は出さないでくれよ」


 暴発されるよりはマシなので、方向性だけ注意する。


「わかってる。不届き者以外はかすり傷ひとつ負わない。任せろ」


「わたしもいるのでご安心を」


 クーとエリは言う。

 このふたりのコンビならまあ大丈夫だろう。


 お互いがやりすぎを監視することになるはずだ。


「うん? ソークさんからメッセージが来てるな」


 時差を考えたら向こうの夕方くらいに送られたんだろうか?


 【フロンティア】というチーム名で活動している、自分の知り合いが日本に行く。


 よかったら会ってやってもらえないかというものだった。


「フロンティアってどっかで聞いたことがあるな」


「やまとの配信を見ている輩の誰かが出していた名前ですね」


 とエリが即答する。

 そうだっけ。


「ソークさんの知り合いなら、会ってみるくらいはいいかな」


 実はお金のことでこっそり相談に乗ってもらっているからだ。

 やり手の実業家らしい助言にはとても助かっている。


「あら、あの男の関係者ですか」


 とエリが目をちょっと見開く。


「それなら安全装置がまだ生きてるので、警戒はすこし下げてもいいかもしれませんね」


 と彼女は言ったが、安全装置ってえげつない魔法のことじゃないだろうな……?


「ふん。お前はぬるすぎる。そいつが何も知らないだけという可能性があるだろ」


 クーが辛らつな言い方で噛みつく。


「ええ。承知しています。だからその場合は地獄を見せます」


 エリは天使のような笑顔で、悪魔も逃げ出すようなことを言う。

 考えすぎだと思うんだけど、彼女たちは俺の身を心配してのことだからな。


「じゃあ一応三人で行く?」


 過剰戦力になる気がするんだけど、そっちのほうが彼女たちも安心だろう。


「わたしひとりで充分だが、やまとが言うなら」


「ええ、ぜひ」


 クーとエリの反応はバラバラだけど、とても彼女たちらしい。

 

「ところでアメリカの人たちは何しに来るんだろうね?」


 俺に会いに来るのなら、観光じゃないのかな?

 それとも観光のついで?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る