第92話「ソークとフロンティア」

 アメリカ・某州にて、ジュリアン・ソークはある男たちと会っていた。


「ふうん。回って来た話はデマじゃなかったんだな」


 サングラスをかけた大男が、彼に念押しをする。


「私が何か特殊な手段でだまされてないかぎりはそうだな」


 とソークは答えた。


「まあ動画見てりゃ『アマテル』が本物のバケモノだってことは思い知らされるけどよ、それだけに接点をつくるのが難しいと思ってたんだがな」


 と大男はそっとため息をつく。

 

「運がよかったのだろうな。もちろん努力はしたし、どの行動が正解なのか私なりに熟考もしたがね」


 ソークは自分の行いをふり返る。


「努力だけではどうにもならない物事はあるが、『アマテル』もその範疇だと?」


 大男と仲間たちは探るような視線を彼に向けていた。


「彼自身よりも周囲の者からそういう気配を感じたというべきかな?」


 とソークは慎重に言葉を選ぶ。

 エウリノームと名乗った絶世の美女。

 

 彼女がもしも本物のエウリノームであるならば、しくじればこの世界を地獄に変えることだって容易いだろう。


 『アマテル』の不利益になることはしない、余計なことを話したり実行しないという条件を守ればいいだけなら、むしろイージーすぎる。


 だが、彼ら【フロンティア】には言えないし、言っても簡単には信じないはずだ。


 世界を容易く滅ぼせる存在が何食わぬ顔で地上を闊歩し、ひとりの日本の若者のそばに侍って忠誠を尽くしているとしか思えないなど。


 ソークだって自分自身で実際に体験してなければ、信じられなかったと思う。

 

「『アマテル』に渡りをつけてもらうのは危険なのか?」


 と【フロンティア】のリーダーの大男が問いかける。


「私から質問する程度ならかまわないだろう」


 ようやく本題か、と思いながらソークは落ち着いて答えた。

 

「ルシオラや天王寺豪快とは普通に会うくらいはやってるようだし、拒絶される可能性は低そうだ」


 と見解を述べる。


「ふん。なるほど、じゃあ俺らは考えすぎだったのかな?」


 【フロンティア】のメンバーから楽観的な空気が生まれたので、ソークとしては釘を刺したくなった。


「『アマテル』自身はともかく、彼に付き従ってる者は同じとはかぎらない。厳しい対応をされる覚悟はしておいてくれ」


「承知しているが、会ったこともない者を警戒するというのは難題だな」


 と【フロンティア】の男たちは答える。


 その態度からソークはしつこく警告するのは逆効果になるリスクがある、と直感した。

 

「そうかもしれないな。頭の片隅に入れておいてくれればいい」


 と言ってソークは話を終わらせる。

 

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