第89話「のんびりいきたい」
「べつに売ってもかまわないだろう」
相談に対するクーの返事は正直けっこう意外だった。
「本当にいいのかい?」
「ニンゲンどもも進みはじめてるようだからな。もし手に負えないなら、やまとが解決手段をあらためて売ってやればいい」
と言って彼女は悪い笑みをつくる。
「やまとがとことん称えられるコースですね」
とエリが楽しそうに手を叩く。
「えええ。それはそれでどうなんだろう?」
そんなこと、べつに望んではいないんだけどさ。
「やまとがはじめたことだ。いまさら引き返せないだろう」
飛んできたジャターユが言いながら俺の右肩にとまる。
「引き返したいならかまわないけど、やめたいの?」
とクーが聞いてきて、ジャターユが「あれ!?」なんて言った。
この様子からするとクーに梯子外されたのか。
「いや……そこまで考えてないな。のんびり気負わずに行きたい」
クーとエリには本音を打ち明けておきたい。
俺の性格を知ってる彼女たちなら、いまさら幻滅したりしないだろう。
「なるほど。ならゆるゆるいけばいい」
「そうですね。誰かのためにやまとが消耗するのは看過しがたいです。自分のペースでいけばいいでしょう」
彼女たちは予想通り肯定し、受け入れてくれる。
「うん、じゃあそれで」
と会話を終わらせた。
「結局どうするんだ?」
ジャターユは混乱しているようなので答える。
「ゆっくり販売していくよ。誰かの役に立ちたいとは思うけど、俺が何から何までやるのもおかしな話じゃないか?」
ほかの人をどれだけ舐めてるんだとなってしまう。
ちょっと情報と物品を提供すれば、俺なんてそのうち抜かれるはずだ。
「俺なんてしょせんただの学生にすぎないんだからね」
「いや? それはどうなんだろうか?」
ジャターユが何だかものすっっごく複雑そうな声を出す。
「とりあえずただの学生にクー様とエリ様は無理だと思うが……」
「どういう意味だ?」
声をひそめたものの、ばっちり聞こえたらしいクーが問いかける。
ビクッと全身を震わせたジャターユが気の毒だったので、
「クーはすごいということだろう。俺もそう思う」
と助け船を出す。
「ふむ? じゃあ許してやるか」
クーはにっこり微笑み、ジャターユは「ふーっ」と息を吐いた。
「とりあえず今日は寝たい。明日も学校あるし」
と言ったら勝手にあくびが出る。
「たまにはサボってもいいんじゃないか?」
とクーが言う。
「とんでもないことを言うな。保護者なのに」
サボりをすすめるあたり、やはり彼女は人外なんだろう。
「そうか?」
クーはふしぎそうに首をひねる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます