第88話「世界一?」
「まさかダンジョンボスがエレメンタルとは。何か悪いことをしたかな」
配信を切ったあとにつぶやく。
エレメンタルはモンスターと言うよりは精霊などに分類される存在で、エリに従うものが多い。
そんな彼らにしてみれば敵の隣にエリがいるのは反則でしかなかっただろう。
そりゃ出てくるたびに一瞬固まるわけだよ。
「彼らに運がなかっただけです。そういう場合だってあるでしょう」
と話すエリは淡々としていて、まったく気にしてないようだった。
「支配者なのに?」
配信を切っていて周囲に誰もいないので、小さな声で聞いてみる。
「わたし直属ならともかく、彼らは違いますからね。やまとだって通ってる学校とやらのニンゲン全員と親しいわけではないでしょう」
「そうだな」
思い入れの差みたいなものか。
「そもそもやまとの敵として出てきた時点で、彼らに与える慈悲などありませんよ?」
エリはニコッと微笑む。
けっこうこわい。
美人がすごむと迫力あるんだよな……べつに俺にすごんだわけじゃないけど。
「じゃあいいや。いったん引き上げるとしよう。ところで集めた素材って、そのまま販売しても大丈夫かな?」
「平気ではないですか? 程度の低いものばかりですし」
俺の疑問にエリは即答してくれたが、そういう話じゃないと首を横に振る。
「渡したところで加工できるのかな。天王寺豪快さんみたいに途中で撤退した人たちが多いみたいだから」
このダンジョンをクリアできない人たちに、このダンジョンの素材を何とかできるだろうか?
わりと深刻な問題じゃないか?
「そういう話はクー様のほうが適任かもしれませんね。解決するための方策を用意するなら、わたしでもできると思いますけど」
とエリは答える。
クーの超常感覚は本当に頼りになるもんな。
生きたカンニング装置みたいなもの──というと彼女に失礼だろうか。
「じゃあ戻ってクーに相談だ。魔法をよろしく」
ダンジョンの帰還システムは入り口に戻されるだけだもんな。
「いいのですか? あなたがダンジョンをクリアしたことは配信で流していたはず。帰還システムを使わないと騒ぎになるのでは?」
「……そう言えばそうだった」
エリの指摘で自分のうっかりに気づく。
面倒でも一応は正規の方法で地上に戻るほうが無難だろう。
配信したことによる思いがけないデメリットだったな。
戻ったタイミングで、何人かの探索者らしき人たちと遭遇する。
「すげえ。アマテルさんは本当にダンジョンをクリアして戻って来たんだ」
「やっぱりあの人が世界一なんだろうなぁ」
声はかけられなくても聞こえてはいるんだよなぁ。
いや、話しかけられないだけマシか。
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