第74話「同じところ目指してみない?」

「はー、進路考えるのだるい」


 と烏山さんが店員が持ってきてくれた水を飲んでぼやく。


「ほんとだねー」


「とりあえず進学って答える以外ないよね」


 楠田さんと甲斐谷さんが共感をこめてうなずいてる。

 三人ともうんざりしているようだ。


「先のことなんてわからないもんなあ」


 俺だって彼女たちの気持ちは理解できる。


 もっとも、俺の場合クーとエリが心配いらないと言ってくれてる点が、彼女たちとは違う点だろう。


「不死川くんはー? 何か決めてるの?」


 甲斐谷さんがちょっと身を乗り出して問いかけてくる。


「何にも決めてないんだよね。何もわかんないから」


 ため息をつきながら正直にカミングアウトした。


「わかるー」


「そもそもあたしらが手に入れられる情報がすくないよね」


 四人でうんうんとうなずきあう。

 同じ悩みを抱えている仲間が一気に増えた感じがして、なんだかうれしい。


 俺はひとりじゃないんだという気持ちになれる。

 

「不死川くんって親は何か言わないの?」


 と楠田さんに質問された。


「言わないよ。そもそも家にほとんど帰って来ないし」


「あ、そっか。お弁当つくってくれる人と同居してるんだっけ」


 と甲斐谷さんが納得する。


 クーとエリの存在を完全に隠しきるのは無理だと思うので、ぼやかして三人には話していた。


「うちの親は俺が高卒だろうと、大卒だろうとおそらく何も気にしないだろうね」


 というと三人が同情する視線を向けてきたので、すこし心が痛い。

 親に放置されていると思われたんだろう。


 クーとエリがついているかぎり、俺の人生は何の心配もいらないって安心されてるというのが、本当のところだからね。


 もしも彼女たちがいないなら、いまのようにひとりで実家で暮らすなんてことは認めてもらえなかっただろう。


 もちろん彼女たちには言えないし、話したところできっと誰からも信じてもらえないに違いない。


「不死川くん、何なら同じ大学を目指してみない?」


 と甲斐谷さんから提案された。

 ぼっちなうえに親からも関心を持たれてないって、心配されたかな?


 誤解をとくのは無理だろうし、やることもないしなぁ。


「いいけど、俺でも狙えそうなところかな?」


 その点は確認しておきたい。

 甲斐谷さんの成績なんて知らないからだ。


「だいじょーぶ。あたしの成績、学年の真ん中くらいだから!」


「それだと俺とあんまり変わんないね」


 赤点をとるとさすがにまずいので、何とか真ん中くらいはキープしているのだ。


「そうなんだ! じゃああたしが女子大行かないかぎりは平気じゃん!」


「たしかにね」


 と納得する。

 成績が同じでも受験は失敗する場合あるんじゃないかな?


 中学のとき同じクラスのカップルがそんなことになってたんだよなぁ。

 あのふたり、あのあとどうなったんだろ?


「ちなみにあたしらも同じ大学目指すつもりだから、全員で受かれるといいね」


 と烏山さんに言われる。


「そうだね」


 同意できるのはたしかなんだけど、大学はどこだろう?

 何となく聞きそびれてしまった。

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