第69話「録画配信を試してみよう」

「ま、まいりました……」


 周囲に被害を出さないという条件の勝負で、リズはあっさりと負けていた。


「当然の結果ですね」


 とエリが自信たっぷりに笑う。


「よわっ」


 とクーがリズをディスっている。

 俺には何が何だかわかんなかった。


 リズが弱いんじゃなくて、エリが強い気がするのは錯覚?


「一応わたしはクー様の次くらいには強いんですよ?」


 とエリが俺に言ってきた。

 アピールなのかな? されても困る種類のやつなんだけど。


「そうか? おまえと同じくらいのやつ、まだいるぞ?」


 とクーは首をかしげる。

 エリと同じくらい強いのって誰なんだろう?


「くっ、頑張ってナンバー2の座を奪うしかないですね」


 エリが何やら負けず嫌いを発揮して意気込んでるけど、大事なことなのかな?


「別にエリはエリだよ?」


 強くて弱くても関係ない。

 

「なら何番でもいいです」


 エリはニコッと笑って俺の手を握る。


 変わり身はやっ。

 いや、これは言わないでおこうか。


「どさくさにまぎれるな」


 クーがエリの手をぺしっと払う。

 

「あら、リズを圧倒したのですから、やまとに褒めてもらう場面ですよ?」


「こいつが弱いだけ。図に乗るな」


 クーとエリの間で見えない火花が散った気がする。


「何でそうなる? ふたりともお仕置きするよ?」


 お仕置きと言ってもいっしょにご飯食べないとか、幼稚園児レベルのやつだけど。


「ご、ごめんなさい」


 ふたりには効果が圧倒的で、必死で謝って来た。

 

「わかればいいんだよ」


 ふたりが自重してくれるならそれでいい。


「せっかくだから下の階にも行こうかな?」


 できれば歩いていきたいけど、久しぶりに俺と会いたいやつがほかにもまだいるかもしれないと考える。


「いいですね。わたしの魔術ならひとっとびです」


 エリがクーとは違った方向性で規格外だからね。


「じゃあ四十階で」


「かしこまりました」


 エリの魔術で指定した階へすぐに移動する。

 四十階は天井も壁も床も氷をイメージさせる色だ。


「相変わらずひんやりとしてるよね」


 避暑にうってつけの場所かもしれない。

 歩いていくと顔なじみたちがひょっこり顔を出す。


 雪男や氷の人形みたいな外見をしているので、小さな子どもたちならもしかしたら喜んでくれるかも。

 

「一応動画を撮っておくか」


 いま気づいたんだけど、毎回リアルタイムで配信しなくてもいいんじゃないだろうか。


 まずは試しに録画を配信して試してみよう。

 指笛を吹くと、さほど待たずにジャターユが飛んでくる。


「さすが頼りになる」


 鳥の聴覚ってどれくらいすごいんだっけ?

 とジャターユじゃなかったら疑問に思うところだけど。


「どうかしたか?」


 とジャターユは俺の肩にとまって問いかけてくる。


「ここを録画をしてあとで配信してみようと思いついたんだ。ちょっと試したいから、協力してくれないかな?」


「かまわないぞ」


 ジャターユは頼みを快諾してくれた。


「わたしたちがいらないですね」


 とエリが空気を読んで後ろに下がってくれる。


「わたしを映せば人気出るかも?」


 自分だけアピールしてくるのはいかにもクーらしい。

 思わず苦笑したけど、エリと同じ位置に下がってくれとジェスチャーで頼む。

 

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