第70話「スカジ」

 ジャターユに実況してもらいながら歩いていく。

 この四十階にいるのは氷や雪をほうふつとさせるメンバーだ。


 全身が白い毛に覆われた体長三メートルを超す大男、氷の鱗を持ったトカゲが多い。


 前者の名前はフローズンギガンテス、後者はブリザードテイルと呼ぶとクーから教わったことがある。


 強さはたぶん1階の犬たちよりは上だろう。

 基本的に下の階に行くほど強くなる傾向だと、やっぱりクーから聞いている。


 例外的な存在はわりといるらしく、「あくまでも基本」と言っていた。

 配信だから定期的に吹雪くエリアは避けておこうかな。


 途中でアイスドラゴンに遭遇する。


 ふだんは階の隅っこで寝てるのに珍しいと思って手を振ると、尻尾をふり返してくれた。


 もちろん顔なじみなので戦いにはならない。

 うん? 何か鱗が落ちてるぞ?


「もらってもいいのか?」


 ジャターユが俺のかわりに聞いてくれた。

 アイスドラゴンはゆっくりとうなずく。


「じゃあもらっていく」


 ジャターユが言ったのに合わせて鱗を拾ってポケットに入れる。

 アイスドラゴンの鱗って欲しい人いるのかな?


 クーやエリだといらないって言うのが目に見えてるので聞く必要はないだろう。

 俺たちはやがて40階の最深部に出たので、録画を終了させる。


「ここまでか?」


 とジャターユに聞かれた。


「うん。ここの主の動画を外に出したらまずい気がするんだよね」


「わらわが何か?」


 五メートルくらい先にある門の前にたたずむ美人が問いかけてくる。


 水色の髪をサイドテールにして白い着物という、おとぎ話に出てくる雪女みたいな外見だ。


「いや、俺の事情だよ。久しぶり、スカジ」


「やまと、久しぶりじゃな」


 スカジは目を細める。

 彼女はめったに笑わないけど、目に感情が出やすい。


 かなり歓迎されているようだ。


「やまとが歩き回っておるというウワサは聞いておったが、事実のようじゃな」


 引きこもりタイプの彼女が知ってるとなると、積極的に広めたやつがいるのは確定する。


「うん。話の出所はリズかアルカあたりかな?」


 と予想してみた。


「正解じゃ。さすがじゃな」


 スカジはもう一度目を細めて感心してくれる。


 でも、実のところ彼女に情報を持ってくるほど仲が良くて、話を自発的に広げていくタイプはあの二名くらいだ。


 消去法が正しかっただけである。

 

「たまには見て回ろうと思ったんだけど、変わったことはない?」


「特にないな。それにクー殿とエリ殿がいるかぎり、何が起こっても大丈夫じゃろう」


 スカジの返答にうなずいた。

 クーとエリがいてもダメなら、あきらめるしかないもんね。


「一応我も時間稼ぎくらいはできると思うがな」


 ジャターユが翼を動かして自己主張する。


「もちろん、頼りにしてるよ」


 俺がくちばしの下を撫でたら満足そうに鳴き声をあげたところへ、エリとクーがやってきた。


「録画しないならわたしがいてもいいはず」


「移動するならわたしの魔術ですしね」


 ふたりの主張に俺は吹き出してしまう。


「相変わらずの仲か。いいことじゃ」


 スカジは満足そうだった。

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