第67話「クレームが……」
「どこに行けばいいのかわかんないから、適当に回ってみようかな」
視聴者の人たちに「みんなは何がほしい?」とか「何が見たい?」なんて質問をするわけにもいかない。
アンケートを取れたら楽なんだろうなとは思うけどね。
「何なら前回の続きをしてみてはいかがです?」
とエリに提案される。
「続き? ああ、アルカあたりで一回とまってたね」
紅月の涙に切り替えたんだっけ。
「そのおかげでわたしにクレームが……」
不意に現れたアルカが悲しそうな目で訴えてくる。
「下の階層から? 話が伝わったの?」
俺が首をかしげると、
「やまとに関する情報はあっという間に広がりますよ」
エリがくすくす笑う。
あっ、アルカにクレームの矛先が向けられるって予想していたけど、あえて放置していたって顔だ。
「ううう、エリ様ひどい」
アルカは涙目で抗議するけど、当然のようにエリはスルーする。
「じゃあやっぱり先に下に行ってみようかな。配信はそんなに急いでないし」
いろんな意見があるようだけど、いちいち気にしていたらきっと身がもたない。
自分のペースでのんびりやるのが一番に決まっている。
「こいつなんてあと回しでもいいよ? やまとの都合のほうが大事」
とクーがはっきりと言う。
「そ、それはそうなんですけど……」
アルカはちょっとひるんでいる。
「誰が言ってるの?」
彼女はクーとエリと比べたら強くないってだけで、ファリよりは強い。
そこまで遠慮する相手なんて数は多くないと思う。
「リズです」
「あいつか」
俺が何か言うよりも先にクーが顔をしかめる。
「リズのくせに生意気だな。わたしが殴っておこうか?」
リズと彼女は折り合いがよくないからなぁ。
「いや、俺が会いに行くよ。そっちのほうが絶対にいい」
と言い切る。
「クー様とリズ様がぶつかり合ったら、最悪ダンジョンがあとかたもなく吹き飛びそうですものね」
エリが俺の懸念を代弁してくれた。
「そ、そうよね……」
アルカとジャターユはひきつった表情で同意する。
「そこまではしない。やまとが死にかねないから」
クーは否定して真顔で言う。
「うん、俺は死ぬよね」
アルカやエリは死なないかもしれないけど。
「納得しました」
「やまとの命が懸かってるなら理解できる」
エリとアルカの発言には苦笑するしかない。
「でもやっぱり俺は行くよ。リズにも会っておきたいから」
あいつもまた家族のようなもの。
俺と会いたがってると知っていてスルーする気にはなれない。
「わたしも行こう」
「わたしも同行します」
クーとエリは即決する。
このふたりはいてくれるとありがたいしね。
「ジャターユも頼むよ」
「承知した」
ジャターユは翼を動かして返事をする。
「わたしはやめておくね」
アルカはおとなしい。
「いまはそのほうがよいでしょうね」
とエリが言った。
「リズって何階にいるんだっけ?」
久しぶりだから、すぐには思い出せない。
「あいつのことだから50階から70階あたりをうろついているのでは?」
とクーは首をかしげる。
「わたしのところにも顔を出したよ。ふつうに徘徊してるよ」
アルカがげんなりした顔で答えた。
「ああ、リズは徘徊してるんだったね」
さすがに上の階はめったに出てこないみたいだけど。
……そうだ。
「エリならここからリズに呼びかけられるよね」
「ええ」
思念を飛ばす魔術のひとつがあったはず。
「落ち合う場所を先に決めておいたほうがいいかなと思ってね」
「御意。リズも喜ぶでしょう」
エリは微笑してさっそく魔術を使う。
「やまとの許可があるなら1階まで出向くそうです」
「ダメだ。25階までにしておけ」
クーが間髪いれず反対する。
「そうだね。リズって力のコントロールが上手くないもんね」
あくまでもクーとエリに比べて、だけど。
ダンジョンへの影響を考えると上の階は厳しいかも。
「25階の階段で待つように伝えました」
「ありがとう、エリ」
「どういたしまして」
礼を言うとエリは笑顔で応じる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます