第66話「降参」

「べつにいいんじゃない」


 俺の報告を聞いたクーの反応はあっさりとしていた。

 あまりにも淡白だから彼女の顔をまじまじと見てしまう。


「エウリノームの名前の真実にたどり着けるのかどうか。たどり着いてどうするのか。それでニンゲンどものことは測れる」


 とクーは言う。


「何もなければいいんだけどなー」


 俺は面倒ごとはいやだなと思った。


「バカなら報いを受け、そうでなければ何もない。それだけのことです」


 エリはすまし顔で話す。

 性格的に俺が知らないところで何かを仕掛けてそうなんだよね。


「ニンゲンどもが愚かだとしても、それはやまとのせいではない」


 と右肩にとまったジャターユも言う。

 何のなぐさめにもなってないんだよね。


「いや、おまえら暴れるなって話だからね?」


 一応けん制してみたら、三者ともに返事をくれない。

 クーにいたっては目をそらしている。


 ダメだ、いざとなったら暴れるつもりだ。

 

「俺の反対を無視して暴れたら、おまえらにアレをやる」


 と宣告する。


「アレ!?」


「アレ!?」


「!?!?」


 三者三様にギョッとした。

 やっぱり効果はバツグンだ。


「あ、アレはなしにしよう?」


 クーが俺の手を握りしめながら懇願する。


「ダメ」


「う、うー……」


 きっぱりと拒否すると、クーは悲しそうにうなった。


「ダメだ、我らでは勝ち目がない」


 ジャターユはしょんぼりとして、エリはがっくりと肩を落とす。


「悪はほろんだ」


「降参するからほろぼさないで!?」


 クーの涙目の主張を聞き入れて俺たちは和解した。


「話を戻すとして、そろそろ次の配信をしてみようと思うんだ」


 空気を完全に無視したけど、こいつらは誰も気にしない。


「何か考えはあるのですか?」


 エリが平然として質問する。


「うん。青月鉱(ブルームーンアルク)と紅月の涙は、意外と欲しい人がいたみたいだからね。ほかにもそういった素材があればいいなと思うんだ」


 と答えた。

 あのふたつに関してはうれしい誤算だった。


「何でも必要とされるとは思わないけど、二度あることは三度あるって言うし、あとひとつくらい求められる素材があるかもしれないよね」


 というのは現実的じゃないだろうか。


 うちのダンジョンで集められる素材なら何でも売れるなんて、そんな夢みたいなことはまったく考えていない。


「なるほど。ニンゲンどもにとっては宝の山だとは思う」


 クーは賛成してくれたけど、内容から推測するに俺の意見とはちょっとずれてる?


「やまとにとって悪いことになる可能性は低いと思うので、わたしも賛成します」


 エリもうなずいてくれた。

 ……俺にとってよくない展開もありえるのかな?


「わたしとクー様がいれば、世界を敵に回しても平気ですよ」


 エリがまるで俺の心を読んでるようなことを言って微笑む。


「世界を敵に回すのは避ける方向で」


 クーとエリにははっきり言っておいたほうがいいよね。


「承知した」


「それがやまとの望みであるなら」


 クーとエリが同意してくれたのでとりあえず大丈夫そうだ。

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