第65話「もしかして」
エウリノーム。
ダンジョン産の古文書の一部に登場する。
何者よりも美しい妖精種たちの支配者にして女神と呼ばれる超高等存在。
魔法の祖にして頂点に立つと謳われ、最強の一角と評するものもいるという。
その戦力は現在の人類が推し測ることはとうてい不可能。
妖精種は下位にエレメント、中位にエルフおよびスピリットと呼ばれる存在が確認された。
前者は推定戦力が50から60、後者は軽く100を超えている。
たしかに人類はダンジョンボスを倒したが、おそらく最初のステージをクリアしただけである、という見方が最も有力。
「ふー。とんでもない情報をよこしてくれたものだ。これなら爆弾のほうがまだましだな」
集めた情報を整理したソークはふかぶかとため息をつき、冷や汗を服の袖でそっとぬぐう。
「古文書に登場する支配者や神、その一角はすくなくとも実在すると判明したということになるか」
ソークは自分の書斎でひとりごとをつぶやく。
視線は虚空をさまよい、ふとひらめいた。
「彼がファリと呼んでいた獣、ひょっとして本物のファリニッシュという可能性もあるのか?」
視聴者たちはもちろん、世界の有識者たちもあやかってつけられた名前だと結論を出している。
「本物が地上に出れば地球はあっさりと滅ぼされているから、という現実逃避的な理由が強かったのだが……」
どれだけ情報を精査しなおしても、どれだけ知恵をふり絞っても、ファリニッシュよりもエウリノームのほうが強い。
「彼ならありえると思えてしまうな」
とソークは苦笑をこぼす。
アマテルと名乗る日本の少年は、彼の常識をひっくり返してしまった。
否定したい気持ちがわき起こらないのが、我ながらふしぎなほどに。
「エウリノームと友好な関係を築いたからこそ、ファリニッシュも従えられたと考えるべきか? ……現実的な線はおそらくこれだろう」
エウリノームはそれだけ強力な存在なのだし、ファリニッシュ相手でも契約魔法のたぐいは通用してもおかしくはない。
「エウリノームはなぜあの少年に肩入れするのか、という点はさっぱりわからんが」
そもそもエウリノームのような存在とどうやって知り合うのか、という大きな謎が君臨している。
「いや、もしかして彼のことを詮索するなという警告か?」
ソークはハッとなった。
エウリノームがあの状況で突然自分の名を打ち明けた意味。
アマテルが驚いていたのだから独断だろう。
「素顔がわかったのだから、その気になれば調べることはできるが……」
ソークの財力と人脈をフルに使えば、顔と国籍とおおよその住所がわかっている少年ひとりの個人情報を突き止めるのは造作もない。
「それを阻止するためか?」
エウリノームがどれほどの存在か、逆鱗に触れたらどうなるのか。
警告し、プレッシャーをかけたかったなら、すくなくともソークは納得できる。
「エウリノームならどんな魔法を使えてもふしぎじゃないしな」
アマテルはこちらを信じて顔を見せたのだ。
それを裏切るようなマネをすれば、周囲から報復されても仕方ない。
ソークはアマテルを詮索するのはやめた。
それが正解だと気づく日はまだ先の話である。
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