第55話「ちょっと練習してみれば」
今日は中庭で甲斐谷さんたちと四人でご飯を食べる。
だんだんと日常になりつつあるなと思いながら、俺はしたがう。
ぼっちよりも友だちと食べるほうがご飯は美味しいと気づいてしまった。
家で食べるのはクーやエリがいるから、美味しいんだね……。
「不死川くん、おかずあげるね」
と今日も甲斐谷さんが言う。
「ありがとう」
唐揚げをひとつもらってしまった。
「何かお返ししたいんだけど」
もらってばかりだと悪いので申し出る。
「いいよー。ダイエットになるしー」
ふんわりと微笑むながら甲斐谷さんは断った。
そういうものなのかな。
スタイルいいのになと思ったけど、口には出さない。
きっと本人なりのこだわりがあるんだろう。
「じゃあうちらも」
と烏山さんと楠田さんもコロッケとエビフライをくれた。
今日のクーの弁当は和食なので、バリエーションが一気に豊かになる。
「不死川くんってさ、今日の放課後あいてる?」
と烏山さんに質問された。
「あいてるよ」
何でそんなことを? とはもう思わない。
「じゃあ今日、どっか遊びに行かない?」
と言われることは予想できるようになったからだ。
「いいよ」
俺が返事すると三人は笑顔でうなずきあう。
ここは謎のままなんだけどね。
三人とも学年でもトップクラスで可愛いって言ってる男子がいるくらいなのに、どうして俺なんだろう?
勇気がないので問いかけたことはない。
「じゃあ今日はカラオケにしよっかなぁ」
三人でいろいろと候補を出し合う。
カラオケ、服、スイーツが多いなと思いながら聞き役をやる。
「不死川くんは? 行きたいところある?」
途中で甲斐谷さんがこっちにふってきた。
「うーん」
俺は迷ってしまう。
行きたい場所がないわけじゃないんだけど、女子といっしょでいいのかと思ってしまうからだ。
「特には思いつかないかな」
ごめんねと謝っておく。
「謝るようなことじゃないよー」
甲斐谷さんが気にするなと左手をふる。
「女子と出かけることなんてほとんどないから……」
前回の甲斐谷さんたちとのお出かけが唯一の経験だ。
クーとエリとなら何回もあるけど、ノーカンでいいだろう。
そもそも人間じゃないんだし。
「へー、そうなんだ」
と甲斐谷さんがいつものふんわりとした笑みを浮かべる。
「たまには不死川くんから誘ってみれば?」
と烏山さんが言うが、とんでもない。
「いやー、やっぱり難しいよ」
この人、もしかしなくても俺が自分から話しかけられない陰キャだって、忘れてそうだよね。
「いきなりやってと言われても大変だよねー」
と甲斐谷さんがフォローしてくれる。
「うん」
理解してもらえたとホッとしていると、
「あたしたち相手にちょっと練習してみればいいんじゃないかなぁ?」
と甲斐谷さんが意外な提案をしてきた。
「え、練習?」
きょとんとして彼女を見ると、いつものようにニコニコしている。
烏山さん、楠田さんの順番に視線を移したら、ふたりとも笑顔。
「べつにいいじゃん?」
「遠慮しないでよー」
とそれぞれ返ってくる。
「ね?」
甲斐谷さんの笑みが深くなった。
「みんながいいなら、ちょっと考えてみようかな」
断れない流れなのはさすがにわかる。
俺にできるかどうかで言えばかなり怪しいんだけど。
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