第47話「前回を反省して」

「アルカの場合はわざとだからダメだね」


 と俺は断る。


「ああん、やまとの意地悪」


 甘い声を出したアルカはクーとエリのふたりに引きはがされた。

 

「ダメだと聞こえなかったか?」


「聞こえない耳って、はたして必要でしょうか?」


 なんでかわかんないんだけど、ふたりはアルカへの当たりがけっこう強い。

 これまた理由は謎なんだけど、アルカに対してはふたりの息はぴったりになる。


「や、やまと~」


 聴覚をガチでつぶされそうだと判断したのか、アルカが涙目になって助けを求めてきた。


「おまえたちにやられたら、さすがのアルカも再生できないから待って」


 とストップをかける。


 アルカはヴァンパイアなので首を切り落とされるくらいなら、何事もなかったように復活できてしまう。


 再生、蘇生と呼ばれる能力らしいのだけど、クーとエルだと封じることも可能だ。


「やまとが優しくて命拾いしたな」


「優しさにつけこむならお仕置きしますけど」


 ふたりは不本意そうにしながらも、アルカから距離をとる。

 というより俺のすぐ近くに戻って来た。


「なんだかふたりともアルカには厳しいね」


 と言ってみるとクーは微笑む。

 

「やまとはいまのままでもわたしは好き」


「やまとはやまとですからね」


 エリの目つきはまるで幼児を見守る母親のようだった。

 ……俺ってもしかして、何かしくじってたりする?


「じゃあ次の階に行こう」


 ふたりに声をかけると、


「ついていく!」


 とアルカがすぐに叫ぶ。


「おまえなんて守らないぞ?」


「わたしたちはあくまでもやまとの付き添いですからね?」


 ふたりはどこまでも彼女に対して辛らつだ。

 下のほうまで行くとアルカに関しては厳しいかも。


 俺はふたりが守ってくれるから心配いらないけど。


「今日のところはやめておこうか」


 クーとエリが本当にアルカを見捨てるとは思わない。

 でも、俺を守ることを優先させて対応が遅れる可能性はとても高そうだ。


「やまとが言うなら」


「アルカが邪魔なのでは?」


「ふぇぇえん」


 ふたりはアルカを咎める視線をぶつけながらも了承する。

 アルカは情けない声を出すけどこれはウソ泣きだ。


 ちらっとこっちを見たタイミングでクーが俺の前に立ち、彼女の表情を隠してしまう。


「泣き落としなんてさせない」


「そもそもやまとは女のウソ泣きを見抜けないほど、愚かじゃありません」


 クーとエリが連動するように言っている。

 エリには悪いけど女子のウソ泣きを見抜ける自信なんて俺にはない。


 アルカはつき合いが長いから気づけるだけだ。

 

「ところでアルカ、人間が欲しがりそうなアイテムについて何か思いつくことある?」


 せっかく来たんだからと俺は聞いてみる。


 アルカはヴァンパイアだから人間の願望にも詳しいかもしれないという期待があった。


「え、不老不死?」


 彼女はきょとんとした顔で即答する。


「地上に流出させれないよ、そんなもの」


 思わず苦笑してしまった。

 そもそも彼女は不老であっても不滅じゃない。


 クーやエリがその気になれば助からないからだ。


「なら……あれはどう? 【紅月の涙】」


 というアルカの提案になるほどと手を叩き、ちらっと頼りになる存在を見る。


「どう思う、クー?」


「あれなら大丈夫だけど、軟弱なニンゲンどもに扱えるかな? 青月鉱(ブルームーンアルク)くらいは難しいよ」


 という答えを聞いて決めた。


「すこしくらいなら平気だろう。現に青月鉱だっていけたんだから」


 前回を反省して5グラムを上限にすればきっといける。

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