第48話「紅月の涙」
「【紅月の涙】ならちょうどこの階でも採れるし、せっかくだから採って帰ろうか」
と俺は三人に話しかけた。
「はーい! わたし! わたしが採る!」
アルカが右手を挙げてぴょんぴょんその場ではねる。
これだけ見ると子どもみたいだ。
「でしゃばるな」
「やまとの決定を待ちましょうか?」
ふたりが毎度のようにアルカをけん制(もしくは威嚇)する。
「いまは配信しないし、アルカに任せてもいいんだけど」
と俺が言うと、
「せっかくなら配信したらどうでしょう?」
アルカより先にエリが提案してきた。
「たしかに。今まで適当な階を配信してたわけだしね」
青月鉱(ブルームーンアルク)だってそこまでやばいことにはならなかったので、きっと平気だろう。
「配信するならアルカは出ないほうがいいな」
クーがぼそっとつぶやく。
どことなく愉快そうなのは気のせいだと思おう。
「?? 配信? 何それ?」
アルカはきょとんとする。
そう言えばこの子には何の話もしてなかったんだっけ。
「エリ、教えてあげてくれる?」
と俺は頼んでから指笛を吹く。
するとちょっと待っただけでジャターユがここまで飛んでくる。
「呼んだか、やまと」
俺の右肩にとまって彼は問いかけた。
「うん、今から【紅月の涙】を採るところを配信しようと思ってね。またジャターユに実況をお願いしたいんだ」
とお願いする。
「承知した」
彼は軽く翼を動かして快諾してくれた。
「採掘エリアは離れているが、ここから配信するのか? それとも移動してからやるのか?」
と確認してくる。
「ここからのほうがいいかな」
さすがに採掘ポイントだけ配信ってのは短いし、味気なく思われてしまいそうだ。
「心得た」
ジャターユを肩に乗せたまま歩いていく。
後ろにはクーがついてきた。
エリとアルカはどうするんだろうと思うけど、配信をはじめたのでふり返られない。
エリは見た目はただのエルフという妖精種だからともかく、アルカは高位のヴァンパイアだ。
もしかしたらリスナーたちにはちょっと刺激強いかもだし。
俺たちが歩く左右からはオリハルコンスコーピオンの群れが姿を見せる。
俺の右腕くらいありそうなデカい尻尾を振ってあいさつをしてくれた。
画面に映らないように気をつけながら手を振って応じる。
何で俺はモンスターたちに襲われないのかって疑問が出ているのは、一応把握しているからだ。
クーとジャターユがいるなら、そりゃこいつらは襲ってこないよって思うけど、やっぱり言わないほうがいいよね。
右に曲がって進んでいくとダイヤモンドゴーレムは道の脇で静かにたたずんでいる様子が見えてくる。
彼らはあいさつをしてこない。
さらに左に曲がると『紅月の涙』を採掘できるエリアに出た。
壁一面が赤黒く、人によってはグロテスクに見えるかもしれない。
素手で採掘できるから、さっと採掘してしまおう。
顔が映らないように注意しながら右手でゴリッと掘り出す。
しまった、加減を間違えて掘りすぎた。
これだと50グラムくらいはある……。
青月鉱(ブルームーンアルク)のときを考えれば、受け取るほうが困りそうだよね。
十等分になるように砕いておこう。
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