第26話「多勢に無勢」
クーとファリのおかげで、知らないダンジョンでも緊張感はない。
「やまと、大丈夫? 休憩する?」
クーは何度も聞いてくる。
「そこまで軟弱じゃないよ。ちょっとは鍛えてるから」
俺は笑いながら答えを返す。
他人を助けに来たのにいちいち休むのはどうかと思うんだ。
「『ルシオラ』はどのあたりにいるんだろう?」
俺が疑問を言葉にすると、
「おそらくだけど十階。このすぐ下ね」
とクーはすぐ答えた。
ファリが「やっぱり俺いらないじゃん」という顔をしたけど、気持ちはわかる。
「行ってみようか」
もしかしたらまだ助けは必要ないかもしれない。
そのときは素直に引き返そう。
「なんかあったらファリ、頼むよ」
クーがやるとダンジョンを壊しそうだから。
というか過去に壊したことあるから。
「ワン」
とファリは応じる。
「しくじるなよ?」
クーがプレッシャーかけると、ファリはビクっと震えた。
「クー」
「わたしが悪いの?」
俺がたしなめると、彼女は納得できないという顔でこっちを見たのでうなずいておく。
「むう……」
うなるだけでそれ以上は言ってこない。
これでよしとしよう。
十階への階段を下りていくと、女性の声と戦闘の音が聞こえる。
「すこし急ごう」
俺は言うと駆け出す。
クーとファリは俺の足に合わせてくれている。
先行してもらいたいくらいだけど、敵性モンスターだと勘違いされたら厄介だしなぁ。
「な、何で、こんなにトロールが?」
「まさかモンスターパレード?」
女性のふたり組が声をあげながら、必死に戦っている。
トロール?
疑問に思って前方を見ると、身長二メートルくらいありそうなこん棒を持ったデカブツがうじゃうじゃといる。
緑色の皮膚を持った鬼みたいな容貌だ。
一対一なら女性たちのほうがずっと強いみたいだけど、数が違いすぎる。
「多勢に無勢ね」
とクーが評した通りだと思う。
ファリがいなければな。
「加勢します!」
俺は女性たちに大きな声で叫び、次にファリに指示を出す。
「ファリ、頼む!」
いちいち大きな声を出したのは、俺の味方だと印象付けるためだ。
「ワオオオオン!」
ファリが吠えるとすぐに彼の群れが現れる。
正式には別の呼び方があるらしいけど、俺は「仲間を呼ぶ声」と呼んでいる。
中型犬や狼の姿をした個体、大きなライオンの外見をした個体もいた。
ファリは「獣」に分類されるなら、いろんな種を同時に呼べるらしい。
「ええ!!??」
女性たちは混乱しているが、獣たちが自分たちを無視してトロールに襲い掛かるのを見て、敵ではないと判断したようだ。
ファリの仲間たちのほうが強いらしく、一方的にトロールとやらを撃破している。
俺はその間に女性たちに声をかけた。
メチャクチャ警戒されててちょっとショックだけど、仮面かぶってるから仕方ないか。
「大丈夫ですか?」
「え、えええ」
女性たちは明らかにビクビクしている。
ファリのやつが大量の仲間を呼んだからかな?
いや、俺の見た目が相当怪しいってのもあるか。
不審者と長い時間いっしょなのは精神的に苦痛だろうから、用事をすませてしまおう。
「さしつかえなければ、上まで送りますよ」
「えっ……」
女性たちは困惑してるみたいだ。
ううん、これはまいったな。
俺は味方だと信じてもらえないとつらい。
クーがけわしい顔をして前に出ようとしたので、腕を彼女の前に出して制止する。
「差し出がましかったようでごめんなさい」
初対面の不審者にいきなり善意を押しつけられたらこわいかも。
そのことに気づいたので謝って帰ろう。
「い、いえ! びっくりしすぎただけですから! 危ういところを助けていただいたのにお礼も言えず、失礼しました!」
と頭を下げてきたのは茶髪をベリーショートにした女性。
年は俺よりすこし上っぽい。
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