第25話「みんなモンスターを仲間にしないの?」
着替えたあと、エリに見送られてクーといっしょに外に出る。
「ファリニッシュ!」
俺が呼びかけると一番大きな黒い犬が「珍しいな」という顔をしながらすぐに寄って来た。
「いっしょにお出かけしよう」
「ウォン!」
うれしそうに返事をしたので頭をなでてやると、勢いよく尻尾を振る。
「どうやって行けばいい?」
なで続けながらクーに問いかけた。
「わたしの魔法でひとっ飛び。そのほうがいいでしょう?」
彼女の言いたいことはよくわかる。
「ファリニッシュがいっしょだからね」
これだけ大きな犬がいっしょだと、使える交通手段は制限されてしまう。
「さすがに外で乗るわけにはいかないんだろうし」
ファリニッシュは俺を乗せて走れるんだけど、やっぱり人に見せるのはちょっとかっこ悪い。
馬じゃないんだから犬がかわいそうって言われてしまいそうだ。
「どこのダンジョンに行けばいいのかわかってる?」
とクーに確認すると、
「わたしに不可能はない」
どや顔で返される。
「うん、頼りにしてるよ」
「まかせなさい」
久しぶりの外出だからか、張り切ってるように見えた。
「あらゆる障害を無にして我、世界へ飛び立たん──テレポート」
クーが詠唱するのは珍しい。
俺へのサービスかな?
子どもの頃は彼女が呪文を唱えるのを見たくて、何度も頼んだから。
俺たちの周囲の景色が一瞬で家の外から、どこかの建物のなかに切り替わる。
「じめじめしてて洞窟っぽいな」
きょろきょろ見た感じ、『ルシオラ』の動画に出てきた壁に似ていた。
クーだしたぶん一発で引き当てたんだろう。
「どこにいるのかな、『ルシオラ』は?」
「そのためのファリでしょ?」
俺の問いにクーが言うけど、指名された当事者は「え、ぼく、何も聞いてない」という顔をしてるぞ。
クーは他人の気配を感知するふしぎな力を持っていて、だからここまで来れたと思うんだけど。
ファリにも働かせたいってことかな?
「俺以外の人間を探してくれるか? おまえの鼻で」
かがんで頼んでみると、ファリは元気よく「ワン!」と返事。
周囲に誰もいないけど、こいつならきっとなんとかしてくれる。
スンスンと鼻を動かしたあと、こっちだと言うように俺を見上げながら駆け出す。
「うわぁ!」
「なんだ!?」
ほどなくして他の人を見つけたものの、誰もがファリを見て仰天する。
腰を抜かして尻もちつく人もいるけど、暗がりでファリみたいなデカい犬を見たら当然か。
配慮がたりないと言われたら否定できないかもしれない。
でも、みんなモンスターを仲間にしたりしないのかな?
凶暴な個体もいるけど、ファリみたいに人懐っこいやつだっているのに。
クーとファリが「どうする?」とでも言いたそうに視線を送ってくる。
別に俺たちのせいでピンチになったわけじゃなさそうだし、放置でいいだろう。
何人かスマホや自撮りアイテムを持ってる人もいる。
彼らも配信者だとしたら、来る前に仮面をかぶっておいて正解だったな。
「先に行こう」
出る前にクーがかけてくれた魔法のおかげで自分の声じゃない。
進んでいくけど全然モンスターが出てこないのは、やっぱりクーにビビってるんだろうな。
彼女といっしょだと一部の例外をのぞけば、だれも見かけないし。
「楽でいいか」
とつぶやく。
クーにビビらないやつは確実に強い。
クーが戦う事態なんて来ないほうがいいよね。
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