第24話「出発準備」

「そう言えば誰と行くか、とは言ってなかったな」


 俺はそっと息をこぼす。

 玄関で靴をはいた段階で、クーとエリが期待の視線を送ってきてる。

 

「普通ならエリなんだけど」


「なぜ!?」


 エリはうれしそうに微笑み、クーは愕然とした。

 さすがにかわいそうか。


「暴れない?」


「……」


 俺の確認にクーは黙って目をそらす。


「ウソをつかないのは好感持てるけど」


 やっぱり心配なんだよなぁ。


「ではほかにも連れて行くのはどう? 戦うのはそいつの役目ならいいのでは!?」


 クーは代案を出してくる。


「うーん。アイデアはいいけどやられないか心配だな」


 クーたちは強いけど、ほかのやつらはそうでもないっぽいからね。

 よそのモンスターと戦ったら負けてしまいそう。


「たいていのモンスターには勝てると思いますよ」

 

 意外なことにエリがクーの味方をするような発言をした。

 これにはクーも驚いている。


「あまり不満をためこんでも、あとが怖ろしいですからね。やまと以外が」


「そうなのか?」


 エリの言葉を怪訝に思う。

 けど、すぐにクーのストレス発散方法を俺は知らないと気づく。


「まあ、大丈夫そうなら連れて行ってもいいけど。だれがいいかな? ファリニッシュあたり?」


 首をひねって思いついたのは庭で放し飼いしてる犬たちで、一番体が大きいやつだ。


 大型の猟犬みたいな見た目なので、はったりにはなるも。


「あの子が無難でしょうね。やまとの護衛も務まるでしょう」


 とエリは言う。


「あいつならわたしも賛成」


 クーも納得した。


「やまと、準備はいいのですか? おそらくですが、何かの拍子にあなたの姿が動画に映る可能性はあると思いますよ」


「あ……」

 

 エリの指摘に間抜けな声が漏れる。

 そこはなんも考えてなかったな。


「『アマテル』としての服装、なんか考えたほうがいいのかな?」


 すくなくとも素顔は出したくない。

 

「よければこれをどうぞ」


 エリが真っ黒なお面を差し出す。


「わたしの魔法で作ったものです。クー様並みの実力者でもないかぎり、突破されないでしょう」


「ありがとう」


 仮面をつけてみたらめちゃくちゃフィットした。

 視界は明るいし、何もつけてないような感覚に驚く。


「すごいな。これ。ありがとう」


「喜んでもらえて何よりです」


 エリは手を叩いて喜ぶ。

 

「服装はこのままでいいかな?」


 何の変哲もないウェアとジーパンなので、特定はされないと思う。

 

「ありでしょうけど、仮面とはあってないかもしれませんね」


 エリの指摘に考え込む。


「わたしの糸で服を作ろうか?」


「時間が惜しいよ」


 クーの提案はありがたいけど、さすがに俺のサイズに合った服は一瞬で作れない。


「むう。じゃあアラクネーのものを使うといい」


「ああ、なるほど。着替えてこよう」


 アラクネーの服は着た人間に合わせてサイズを変えるという、ふしぎな効果を持つ。


 おまけにクーいわく鉄より頑丈らしい。

 クーが何着かプレゼントしてくれたのが幸いした。

 

 俺が選んだのは青のトップスと黒のパンツだ。

 最後に着たのは中一のころなので、当時の体格にあったサイズになっている。


 俺が手に持ったとたん、いまの体格にあったサイズに変わった。


「何回見てもふしぎだよな」


 俺しかいないのでぽつりと言う。

 きっとこれも魔法の力なんだろう。

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