第27話「状況を聞こう」

 身振りでクーを下がらせる。

 彼女が威嚇したら『ルシオラ』たちとまともに会話できないだろうから。


 トロールの群れを蹴散らしたところで、ファリは吠えて仲間たちを送還する。


「危ないところどうもありがとうございました」


 ふたりの女性を改まって礼を言われる。

 どちらも年は同じくらいでかなり可愛い。


「いえ、たまたまです」


 クーの力は説明するほうがやばそうなので、偶然ということにする。


「今のは何だったんですか?」


 と俺は状況を聞く。


「わ、わかりません。突然トロールの群れがうじゃうじゃと出てきて……」


「トロールなんてもっと下の階にしか出ないはずなんですけど」


 ふたりの女性のきれいな顔にはとまどいが浮かんでいる。

 

「そんなことがあるんですね」


 よっぽど強い個体なら自由にエリアを移動できるってのは、俺も知っていた。

 クー、エリ、ジャターユ、ファリという例がいるから。


 ただ、ふたりの様子からするとトロールはそんな強い個体じゃなさそうだ。

 ファリの群れが圧倒できるくらいだもんな。


「なら、ダンジョンの外に出たほうがいいかもしれません」


 と俺は提案してみる。


 このダンジョンで何が起こってるのかわかんないけど、すくなくとも彼女たちにとって危険な状態になっている可能性は高い。


「そ、そうですね」


 ふたりは同意したものの、俺の様子(仮面でわからないはず)をうかがう。

 

「よければ同行します」


「ありがとうございます!}


 ふたりはホッとしていた。

 なるほど、自分たちだけじゃ不安だったんだな。


「原因を調べないの?」


 クーは耳元でささやく。


「あとでもいいじゃないか」


 俺はささやき返す。

 『ルシオラ』たちを助けるという目的を優先したい。


 ファリに先行してもらってもいいんだけど、彼はジャターユと違ってしゃべれないという問題がある。


 感情は伝わってくるし、意思疎通は確実にできてるんだけどなぁ。


「えっと……」


 『ルシオラ』たちが話しかけようとするたび、クーがじろっとにらんで彼女たちがビクッとする。


 彼女たちと会話するとぼろが出そうだから、これはクーを責められない。

 三回くらいくり返したところで地上にたどり着けた。


「送っていただき、ありがとうございました」


「あのー、お礼をしたいので、お名前を」


 『ルシオラ』のほうに名前を聞かれる。

 本名は名乗りたくないし、『アマテル』と名乗るのはなんとなく恥ずかしかった。


「名乗るほどの者じゃないので」


 と言って俺はダンジョンにふたたび入ってしまう。


「あっ」


 残念そうな声は聞こえなかったふりをした。


「どうする? 一気に進む?」


 とクーが小声で問いかける。

 クーの魔法って見せても大丈夫なんだろうか?

 

「ちょっとくらいなら平気かな?」


 いちいち説明する義理はないし。

 というか今回はジャターユを連れていないから、実況もろくにできてない。


「詠唱はなしで」


 と言うとクーはニコッと微笑む、次の瞬間俺たちは十階の地点に戻っていた。

 魔法の発動速度が速すぎる。


 視聴者には何が何だかわかんないだろうけど、放置させてもらおう。


「ファリ、よろしくな」


「ウォン!」

 

 俺が声をかけるとうれしそうに答えた。

 


 

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