第21話「もしかして鍛えてる?」
四人で来たのは古着ショップだった。
三人の女子は服を手に取ってお互いに意見を言い合う。
そして最後に俺にも意見を求めてくる。
「ちょっと不死川ー。あんたさっきから似合うしか言ってないじゃん」
「もうちょっとなんか言いなよ」
ところが、烏山さんと楠田さんに呆れられてしまう。
だって三人ともタイプが違う美少女だし……。
「いやいや、ほんとに似合ってるし」
と俺は勇気を出して答える。
女子の褒め方なんて知らない俺には、かなりハードルが高いミッションだった。
可愛いとかきれいとか、同級生の女子に言うのは恥ずかしい。
「ふーん」
烏山さんと楠田さんはじろじろと俺の顔を見る。
なんだろう?
「まあまあ、本音っぽいから許してあげようよー」
と甲斐谷さんがゆるい口調でかばってくれる。
「たしかに。照れながら言ってるから、許してやるか」
と烏山さんは納得した。
照れてるのがバレバレだったか。
しっかし古着ショップと言ってもいろいろあるもんだなと感心する。
来たことがないから全然イメージできなかった。
棚の上にある段ボールが崩れて落ちてくる。
「きゃっ」
気づいたのは俺と甲斐谷さんだけ。
残り二人は背を向けているから無理ない。
「あぶなっ」
とっさに体は動いていて、俺は段ボールを左手で止めた。
「大丈夫ですか!?」
離れた位置でこっちの様子をうかがっていた女性店員が、あわてて駆け寄ってくる。
「はい」
烏山さんと楠田さんはぽかんと様子で俺を見たまま、力なくうなずいた。
「不死川くん、すごーい」
甲斐谷さんが褒めてくれる。
「それ、重量がかなりあるはずなんですけど、すごいですね。さすが男性」
女性店員も俺に感心した。
「不死川、ありがとう」
「危ないところ助けてくれてありがとう」
烏山さんと楠田さんのふたりに礼を言われる。
「どういたしまして」
気の利いた言葉は出てこなかった。
スマートな対応ってどうやればいいんだろう?
女子たちは一着ずつ買ったものの、俺は何も買わなかった。
「じゃあそろそろ解散する?」
「そだね」
店を出たところで、烏山さんと楠田さんが言う。
確認したら時刻は18時前だった。
暗くなりはじめているし、女子はそのほうがいいんだろうな。
「不死川の家ってどっち?」
と烏山さんに聞かれる。
「ええっと」
たぶんこっちだなと指をさす。
「じゃあリンと同じ方角だね」
「送ってあげなよ。途中まででいいからさ」
烏山さんと楠田さんに言われる。
リンってだれ?
きょとんとすると、甲斐谷さんがぽんと俺の肩を叩く。
「ごめんねー。お願いしてもいい?」
とやわらかい笑みで頼まれる。
「いいけど」
帰り道が同じならかまわない。
俺ひとりいたところで役に立つか怪しいけど、いないよりはマシなんだろう。
「不死川くんってさ、もしかして鍛えてたりする?」
と甲斐谷さんに聞かれる。
「いや、とくには」
素直に答えた。
心当たりと言えばクーやエリといっしょにダンジョンにもぐったり、犬や猫と遊ぶくらい。
あれらを鍛えるっていうのは違うだろう。
「ほえー、そうなんだぁ」
甲斐谷さんはふしぎそうにこっちを見る。
女子にまじまじと見つめられると気恥ずかしい。
それっきり話題はなくなって、改札口の前で別れる。
「じゃあ、また学校でねー」
「うん」
土日は学校が休みだから月曜日だな。
可愛く手を振ってくれたので、おじぎを返す。
女子に手を振り返す勇気が俺にはなかった。
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