第22話「安定のクー、冒険のエリ」

 女子と同じ時間を過ごすなんて、自分で自分が信じられない。

 まるでフィクションって言いたくなるくらい非日常だった。


 女子の服の種類がとくにすごく多かったのも印象的だ。

 日々の組み合わせを考えるのも大変そうだなと思う。


 クーは和服しか俺が見てないからイメージできない。

 エリは上手く着こなせそうだけど。


「ん?」


 クーのことを考えていたからか、うちの塀の前に彼女らしき影がある。

 

「クー?」


「本物よ」


 俺の思考を読んだかのように彼女は微笑む。

 

「遅かったね」


「ああ、学校の友だちと遊びに行ってたんだ」


 という説明は我ながら信じられない。

 

「そう」


 彼女もちょっと目を見開いたのは、同感だからだろう。

 玄関のドアを開けて閉めたとたん、背後からクーに抱きしめられる。


「メスの匂いがする。三人、いえ四人?」


 と言った。

 訳が分からない。


 接近したのは女子三人と古着ショップの女性店員の四人であってる。


「クーってクモだよな?」


 やっぱり嗅覚が犬並みじゃないのかって思う。


「わたしに不可能はない」


 お決まりの言葉を彼女は言った。

 つい最近エリに否定されてたけど、指摘するのは野暮だろう。


「わたしのこともかまって?」


「わかってるよ」


 彼女の髪の毛をさわると糸状の金属みたいな手ざわりをしている。

 本物の人間の髪じゃないからだろう。


 クーは怒りもせず、黙って目を閉じる。

 続きをっていうサインだ。


「やまと、まず手洗いうがいをすませたほうがいいのでは?」


 いきなり現れたエリに指摘される。


「そうだな」


 クーは目を開いてエリをにらんだけど、正論だけに何も言えなかったらしい。


「今日のおやつは何だった?」


 と聞いてみる。

 クーの性格上、俺が遅くなるからとつくらなかったということはないはず。


「ドーナツ。好きでしょう?」


「うん」


 クーは相変わらず俺の好きなものばかりつくってくれる。

 親にバレたら小言を覚悟しないといけないかも。


「やまと? わたしだってつくれますからね?」


 エリがなんか対抗心を見せてくれる。


「いや、クーがいい」


 きっぱりと断っておく。


「当然」


「くっ……」


 勝ち誇るクーと悔しそうにうつむくエリの姿が対照的だ。

 エリには悪いけど、クーのほうが数段ウデはいい。


 エリの料理って見た目も味もアバンギャルドなんだよな。

 それでいてまずくはないっていうムーンサルトを体験する気持ちになる。


「今日はダンジョンに行きますか?」


 と気を取り直したエリに聞かれた。


「いや、やめておくよ。明日でもいいから」


 夕飯後にダンジョンに行くのはなんとなく気が進まない。

 明日あさって学校が休みでやることないんだし、明日でもいいだろう。


「今日はわたしとゆっくり過ごす。よね?」


 確認の視線をクーは向けてくる。


「いいけど、やりたいことがあるんだよ」


 烏山さんたちの話に出てきた『ルシオラ』という名前の配信者を探してみたい。


 もしかしたら彼女たちとの共通の話題になるかもしれない、と期待しているからだ。


「わたしもつき合う」


「それはいいけど」


 彼女がかまわないというなら、これに断る理由はない。

 

「晩ご飯は?」


「ヒマだったからすでにつくってある。いつでも食べていいよ」


 とクーは答えた。


「さすが」


「ふふ、もっと褒めて」


 クーは得意そうに胸を張る。

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