第20話「友だち」

 話の中心は烏山さんと楠田さんのふたりだ。

 甲斐谷さんはニコニコして、相槌を打ち、聞かれたことに答える。


「で、不死川はどうなん?」


 それだけならよかったんだけど、みんな俺にも話を振ってきた。

 会話に加われないのはつまらないという配慮だろう。


 女子トークに入るのはきついかもって配慮してもらえたら、もっとありがたいなと思いながらしゃべる。

 

「へー」


 三人ともなんとなく俺の考えをおもしろがっている気がした。

 

「男子ってそう思うんだー」


 というのが甲斐谷さんの答え。

 男子の知り合いならいくらでもいそうなのに、と思ったけど言わなかった。


「そう言えばなんか最近ダンジョン配信って言われてるよね」


「そうだね」


 烏山さんが言い出してなにやら話の方向が変わる。


 俺がびっくりする変わり方するのは何回目? という話だけど、まさかダンジョン配信とは。


「不死川、なんか知ってる?」


「ううん」


 楠田さんの問いに首を横に振る。

 嘘ついて悪いとは思うけど、『アマテル』の正体だと明かしたくない。

 

「山野のことだから、不死川がくわしくないと思って絡んでんじゃない?」


 と烏山さんの推測。


「ありそー」


 楠田さんと甲斐谷さんが顔をしかめる。

 うん、うすうすは察していたけど、山野みたいな男子がきらいなんだろうな。

 

 だから俺に話しかけてくるようになったと。

 知らぬ存ぜぬを通さないと、もっと面倒になりそうだなぁ。


「あたし、ちょっと興味あるんだけどねー」


 と烏山さんが言い出す。


「あたしも」


 と甲斐谷さんも言った。

 楠田さんは興味がなさそうな顔をしている。


「『ルシオラ』って知ってる? 女の配信者なんだけど」


 と烏山さんに聞かれた。


「知らない」


 何人か見たダンジョン配信者のなかにはいなかったと思う。

 全員が男だったし。


「ならいいや」


 という烏山さんの様子になんか引っかかるものを感じた。

 もっとも言葉にできないもやもやなので、黙ってやり過ごす。


「それよりそろそろ出ようよ」


 と楠田さんが言う。


「あたしら服を見に行きたいんだけど、あんたも来る?」


 ちらっとスマホで時間を確認した烏山さんが、俺に聞いてくる。

 おそらく彼女たちにそんなつもりはないだろうけど、拒否しづらい空気だった。


「おともします」


 と答えると、


「何それ。かしこまってんの?」


 楠田さんに笑われてしまう。


「友だち同士なのに、何言ってるのー?」


 甲斐谷さんも苦笑い──というにはふわふわした態度だった。 


 女子相手にかしこまってしまう陰キャ男子心理、彼女たちには理解しづらいらしい。


 クーやエリならぜんぜん平気なのに。

 人外だとわかってるからかもしれないけど。


「友だちか」


 友だちって響きは甘美だ。

 俺たちはもう友だちなのか。


 陽キャの距離感はよくわかんないけど、彼女たちが言うならそうなんだろう。


「ニヤニヤしちゃって、今さら?」


「え、あ、ごめん」


 楠田さんに指摘されて、俺は頬がゆるんでると自覚した。

 

「友だちって言われて喜ぶとか、カワイイところあるじゃん」


 烏山さんにからかわれてる気がする。 



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