第11話「ソーク氏と出会う」
次の日、山野たちはまだ俺の動画の話題を出さなかった。
他人の配信をマメにチェックしていないってことだろうか?
まあいい。
どんな顔をして聞けばいいのかわかんないし、なにもないほうが助かる。
いつものように放課後を迎え、今日は早歩きで自宅に戻った。
「速いですね」
玄関でクーといっしょに出迎えたエリが目を丸くする。
「ソーク氏を待たせたくなかったんだよ」
わざわざこっちまで足を運んでくれるんだから。
「なるほど。では急ぎますか?」
とエリが問いかけてくる。
「んー、不自然じゃない範囲がいいかな」
エリの力を借りたら早く移動できるけど、悪目立ちしてしまいそうだ。
「ふむ。加減が難しいですね。目立たなければよいと解釈しても?」
「いいよ」
俺はうなずく。
「では認識阻害の魔法を用いましょう。確実です」
とエリは提案してくる。
「確実なら……変な影響は出ないよね?」
いちおう確認は忘れない。
「ええ。すこしズラす程度ですから」
「じゃあそれでよろしく」
エリが請け負ってくれたので、俺は頼む。
彼女が微笑むと景色が変わり、待ち合わせ場所である駅の近くの銀行に移動していた。
テレポーテーションという魔法である。
初めて経験したときは感動したなあ。
制約があるのかどうか、詳しくは聞いてないけど便利だと思う。
「ソーク氏は駅前に来るらしいんだけど」
どこにいるんだろう?
けっこう人が多いからがんばって探さないと。
それともまだ到着してないのかな。
「たぶんあの男ですよ」
エリが白い指をそっと示した先には、銀色の髪の短い四十代くらいの男性が立っている。
黒いスーツを着て、青いネクタイを締めているイケオジって言われそうな、かっこいい男性だ。
現に女性がちらちら視線を向けている。
男性の周囲にはふたりほど同じく黒いスーツを着た男性が立っていた。
このふたりは若く体格がすごくいい。
「ほかにも何人か周囲にひそんでいますが、あぶり出しますか?」
とエリが俺に聞く。
「いいよ。金持ちのおじさんだったら護衛くらいいるだろう」
ダンジョンがあちこちにできたことで、物騒に世の中になったらしいし。
何もしていない、俺を信じて来てくれた人に変なことはね……。
どうやって声をかけようかと思っていたら、おじさんたちの間でなにやら会話がはじまり、こっちにやって来た。
「失礼、もしかしてあなたが『アマテル』かな?」
多少ぎこちないけど、じゅうぶん意思疎通できる日本語が飛び出す。
「はい。あなたが『ソーク』氏ですね?」
俺たちはにこやかに握手を交わした。
「さっそく本題に入ってもかまわないだろうか?」
「ええ、どうぞ」
俺が返事すると、エリが果実を一個ずつ取り出して見せる。
「おおおっ!?」
三人とも腰を抜かしそうな勢いで驚愕した。
外国人って大げさなくらいリアクションするって、本当なんだ……。
「ふたつでいくらだ!? 四億ドルでどうだ!?」
「それでいいです」
俺は即答する。
値段を吊り上げられるかもしれないけど、なんかいやだったので。
報酬の支払いはどうするんだろうと思ったら、普通にアプリだった。
ダンジョン出現以降、巨大な金額を送金できるようになったって父さんが言ってたな、そう言えば。
「ありがとう、本当にありがとう!」
ソーク氏は俺の両手を握ってくり返し礼を言う。
「いえ、どういたしまして」
なんて返せばいいのかわからず、俺はまごまごしてしまった。
連絡先を交換してあわてて移動するソーク氏の背中を見送る。
「俺たちも帰ろうか」
「あら、このまま帰ってしまうのですか?」
エリは残念そうな声を出す。
「ん? どこか行きたいところがある?」
「はい」
エリが笑顔で肯定したので、じゃあそこに行くかと考えた。
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