第10話「果実を売ってみよう」

「珍しいね。呼んでないのに来るなんて」


 と俺がエリに話しかけると、


「たまにはあなたの顔を見たくて」


 ニコリと微笑み返される。

 トップレベルの美少女の見た目でやられると、いやでもドキドキしてしまう。


「ちょうどいい。おまえに指令を出す」


 とクーは謎の上から目線。


「何でございましょう?」


 エリは怒らずにこやかに対応する。

 大人の女性って感じだ、人外だけど。


 クーは説明が上手くないので俺が話す。


「というわけで出かけるときついてきて欲しいんだ。お願いできるかな?」


「お安い御用です、やまと」


 彼女は快く引き受けてくれる。

 

「あとは何をやっておくべきかな?」


 考えてみたけど自分じゃ思いつかなかった。

 ジャターユだって人の社会には詳しくないので助言は期待できない。


 不安になってきた。


「ダンジョンチューブ投稿者の声を探してみるか」


 同じことやってる人を頼りにするのが無難だろう。

 調べていくうちに頭を抱えたくなった。


「銀行口座かぁ……」


 ダンジョンチューブでは動画の人気に応じて金銭を受け取れる。

 ただし、それには口座の登録が必要だった。


「ま、仕方ないか」


 ほかの投稿者だって金融機関は使ってるんだろうから。

 

「あとは税金か」


 受け取る金額次第では納税義務が生じるらしい。

 正直よくわかんない。


 父さんと母さんに相談のメッセージを送っておこう。


「会う日程の相談をしないと」


 相手のメッセージは外国語だから、翻訳ツールを使ってやりとりをする。

 相手は「ソーク」と名乗った。


「日本に来てるんだ」


 果実が欲しくてあっちこっち探していて、いまはたまたま日本にいるらしい。

 どんな偶然だ? と思うけど、話が早くて助かる。


「エリはいつでもいいよね?」


「もちろん」

 

 即答だった。

 

「じゃあ明日、学校から帰ってすぐに出発しよう」


 ソーク氏はとても急いでるらしく、近くまで来てくれるらしい。

 東京からそこまで離れてるわけじゃないのが幸いだったかな。


「了解しました」


 彼女が承知してくれたのでほっとする。

 ソーク氏はおそらく大人だ。


 家族が必要としているって言ってるから、奥さんか子どもかな?


 ひとりで会うのはちょっとこわい。

 日本人相手だってこわいのに外国人だ。


「あとは果実を採りに行かないと」


 学校帰りに採りに行く時間はないスケジュールだから。

 三日くらいは常温保存できるからいいけど。


「わたしが採ってきましょうか?」


 エリの好意には感謝しながらも断る。


「いっしょに行こう。俺に対する依頼だしね」


 彼女もクーも頼めば多くのことをしてくれるだろう。

 だからって横着をしてはいけない、と思う。


 三階ならひとりで行けるけど、たぶんついていくって言われるだろうし。


「あ、エリ。ちょっと」


 クーがなぜか彼女を呼び止める。


「?? 外で待ってるね」


 クーの表情的に俺に聞かれたくなさそうだったので、気をきかせた。



 ◆◆◆


 大和が部屋の外に出たとたん、空気がひんやりとする。


「おまえがやまとを守るのよ? 死んでもね」


「もちろんです」


 クーのプレッシャーにジャターユは震えるが、エリは動じず受け止める。


「しかし、あなた様はいらっしゃらないのですか?」


 とエリは首をかしげた。

 心配なら来ればいいのに、と言外に含ませる。


「やまとにダメって言われた」


 クーはむすっとした表情で無念をにじませた。


「なるほど。地上の戦力は把握していらっしゃいますか?」


 エリは話を切り替える。


「わたしが調べた範囲では脅威はない。ヒトは戦力50の主すら倒せてない」


「まあ……」


 クーの返答にエリは目を丸くした。


「それはそれは、いくらなんでも弱すぎませんか?」


 いくらでもかわりがきく使い捨てのザコモンスターだって、戦力100ある。

 というのが彼女の感覚だ。

 

「だから心配はいらないだろう。おまえが油断しないかぎり」


 とクーはじーっとエリを見つめる。


「やまとがいっしょなのに? ありえませんよ」

 

 彼女はきっぱりと言った。

 彼がかすり傷ひとつ負うことだって耐えられないのは、何もクーだけではない。


「ならいい」


 クーの言葉にエリは微笑む。

 大和を偏愛する者同士、理解できるからこその笑みだった。

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