第12話「ジュリアン・ソーク」

 ソークは『アマテル』との約束の場所に到着した。

 護衛は左右にふたり以外にも、見えない位置に伏せている。


 もしもなんらかの罠だった場合、誰かひとり生き残って情報を持ち帰るという計画だった。


 雑談をよそおいながら周囲を監視している護衛ふたりの表情が一瞬こわばる。


「来たのか?」


「おそらくとしか言えません」


 ソークの問いに護衛は慎重に答えた。


「いつの間にか気配が増えていたというか」


「これはなんだ?」


 ふたりの護衛の困惑に、ソークは腹をくくる。


「強さか、アイテムか。規格外のなにかを持っているのだろう」


 護衛たちが合図したほうを見ると、ひと組の男女がこちらを見ていた。

 ひとりは日本人の若者で、もうひとりは白人女性だ。


「どちらが『アマテル』だと思う?」


「わ、わかりません」


 答える護衛たちの声は震える。

 彼らは恐怖と緊張と戦っているとソークは理解した。


 逃げ出さないあたり、彼らの勇気の責任感は本物だろう。

 ソーク自身、家族の命が懸かっていないならきっと逃げ出している。 


「あなたが『アマテル』か?」


 彼がギリギリで若い男を選んだのは、女性が彼に気遣っているようなそぶりを見せたからだ。


 おそらく男が『アマテル』で、女は仲間か護衛だと判断したのである。


「四億ドルでどうだ!?」


 目的のものを見せられて、ソークは恐怖や警戒が吹き飛んでしまった。

 あっさり応じてくれた『アマテル』に感謝の気持ちがいっぱいになる。


 何事もなく別れ、離れた位置に止めていた車に乗り込む。


「これで奥様とお嬢様は救われますね」


「おめでとうございます」

 

 護衛たちがかけてくる言葉にソーク氏がうなずいていると、伏せていた者たちが合流した。


 全員、顔が真っ青になっている。


「ご苦労。無事に取り引きは終わったよ」


「よ、よかったです」


 ひとりが心の底から安どした。


「彼らの戦力は計測できたかね?」


 ソークの問いに彼らは首を横に振る。


「なぜだ? アメリカから極秘で取り寄せた最新の計測機のはずだぞ」


 ソークの疑問にひとりが答えた。


「ですが、あれの上限は200までです。それより強いと計測できません」


 ソークは息を飲む。

 たっぷり五秒は経過して、おそるおそる口を開く。


「つまり彼らの戦力は200を超えているというのか?」


 声が震えた。


 戦力100一匹に攻められると、アメリカ大陸は崩壊する。

 戦力180もあれば地球の半分は滅亡してしまう危険がきわめて高い。


 そんな風に言われているのだ。

 だとすれば戦力200超えがふたりもいたら、世界はどうなるか?


「戦力の計測を妨害する手段も存在していますが」


「いや、これ以上考えるのはやめよう」


 とソークは制止する。

 『アマテル』から悪意のようなものを感じなかった。


 こちらの対応に戸惑う、シャイな日本人だった。

 親切な人が多いとうわさが間違いではなかったのだろう。


 ならばたとえ何者であろうと、彼の敵ではない。


「こちらを見逃そうとしてくれる虎の尾を、わざわざ踏みつける愚は避けよう」


「それは……」


 護衛たちは納得したようだ。


「それよりも屋敷へ急ぎたい」


 と指示を出す。


「かしこまりました」


 果実がもつのは三日ほどで、それまでに材料として薬を作らなければならない。

 もしもに備えて、薬を調合できる者は同行させなかったのだ。


 

「命拾いしたのかもですね」


 とエリはぼそっとつぶやく。


 もしもソークたちが大和を調べたり、何か迷惑になる行動に出た場合、災いが降り注ぐ条件型魔法を設置したのだが、発動する気配がない。


 大和の厚意を喜び感謝する者たちには何もしなくてもいいだろう。

 もっとも、愚行に走ったらその時点で魔法は発動するが。


「どうかした?」


「ひとりごとですよ」


 カフェで目の前に座る大和に、彼女は笑顔で答える。

 彼とふたりきりでひとときを、というのはとても素敵なことだ。

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