第6話「次の撮影について」
「今日も動画、撮ろうかな」
シュークリームを食べ終えて言うと、
「今日も? マメだね」
クーが首をかしげる。
こういうところは可愛らしく、年下の女の子みたいだ。
「明日くらいまでは毎日やろうかなって」
もしかしたら気に入ってくれる人がいるかもしれないし。
「そのわりに結果見ないね。それとも外で見た?」
クーの指摘にうっとうなる。
「まだ見てない。勇気がでなくて」
「そう」
クーは優しく見るだけで何も言わない。
「今日の分を投稿したら、見てみようかな」
「いっしょに見る?」
「うん」
クーの言葉にうなずく。
ひとりで見るとダメージを受けそうだ。
彼女に甘えている自覚はあるけど、いまはいっしょがいい。
「今日はどうするの?」
「昨日と同じじゃダメなんだろうな……」
クーに質問されて困った。
犬と猫が映ってるだけなら、ダンジョン配信じゃなくてもいいだろって、ツッコミが容易に想像できてしまう。
まあ撮ってるうちに気づいたんだけど。
変化をつけたいけど、いいアイデアがすぐに思いつかない。
「見映えがよさそうで、不気味じゃないのはもうちょっと下かな?」
ヘビや虫は避けるとして。
「鳥なんかはどうだろう?」
「賛成だ」
と言ったのはクーじゃなくて飛んできたジャターユだった。
いつものように俺の肩の上にとまる。
「おまえ、羽根を落としたりしたら……」
クーがじろっとにらむと、ジャターユはビクっと震える。
俺の背中にこそこそ隠れてしまった。
彼らの力関係はクーのほうが圧倒的に上らしい。
鳥とクモなら鳥のほうが強そうだけど、モンスターだからかなぁ?
「そのへん、魔法で何とかならない?」
「……対処する」
俺の提案を受け入れて、クーはなにやら力を発動させる。
「ふー、たすかった」
というジャターユの声には実感がこもっていた。
俺がいない間、とくに変わったことはないので、不仲ってわけじゃないと思う。
まあクーの機嫌を読むのはけっこう大変なんだけど。
「鳥なんかニンゲンはこのむの? 映像だと食べられないのに」
とクーはふしぎそうに言う。
ジャターユがまた体を震わせたけど、今度は隠れなかった。
「いや、食べるだけじゃないから」
俺は苦笑しながら訂正する。
クーにしてみればたいていの生き物は捕食対象にすぎないだろうけど。
「インコやオウムは人気あるはずだよ。たぶん」
そういう系統のモンスターはいないわけじゃない。
「では三階あたりか?」
「うん」
ジャターユの言葉を肯定する。
「あそこなら緑もあるから、癒し要素も取り入れられるし」
悪い絵面にはならないと思う。
「ダンジョンなのに癒しばかりで平気なのか?」
「うぐ」
ジャターユのツッコミ──というよりは疑問に、俺は言葉に詰まった。
「そうなんだよな」
ダンジョン配信というからには戦闘とか殺伐要素を、視聴者は求めてる可能性は大いに高い。
参考に見た動画もほとんどが戦闘シーンが入ってたし。
「よく知らないけど、ほかが戦いばかりなら逆にアリでは?」
とクーが言い出す。
「どうなんだろう?」
逆張りはありだと思うけど、ダンジョン配信で通用するんだろうか。
「ダメそうなら戦闘に挑戦してみるか」
一回や二回だけであきらめるのはさすがに早い。
俺が決めたことにクーとジャターユは何も言わなかった。
「三階あたりから撮ってみよう。ジャターユ、今日も頼む」
「承知した。昨日と同じでいいのだな?」
「うん」
と返事をしたあとで、ジャターユの実況もどう思われてるのか、わかんないなと気づく。
「見ないってわけにはいかないな」
今日か明日にでも見るとしよう。
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