第7話「三階エリア<ヤルンヴィド>」

 前回のようにジャターユに実況を頼み、俺は三階で撮影をはじめた。

 このエリアは天井が高く、通路の幅も広くなっている。


 鳥モンスターに有利な地形と言えるかも?


 今さら俺に攻撃をしかけてくるやつはこのへんにいないから、いまいち実感できないけど。


 飛んでいる鳥たちは、俺とジャターユを見て「何やってんだ?」と言いたそうな気配を見せる。


 彼らはクーやジャターユほど知能が高くないので、説明しても理解してくれるかどうか。


 彼らは一回にいる犬たちと大して違いはない。

 鳥好きなリスナーが見れば、たぶん喜んでもらえるだろう。


 通路だけ見ても味気ないかな?

 幸い、このフロアならちょっとした視覚変化を期待できる。


 ジャターユは羽音を立てずに俺のあとをついてきた。


 俺たちがやってきたのは大きな樹が何本も生えているところだ。


 俺の腕より太い枝の上に鳥たちは羽根を休めていて、青や赤の大きな果実がなっている。


 どっちもとても美味しくし、ひとつ食べると元気になれる。

 病気のときなんかはお世話になったものだ。


 なお、ダンジョン産だから家族以外に見せたことはない。


 クーはこのエリアを<ヤルンヴィド>と呼んでいた。

 意味は教えてもらえなかったけど。


 そう言えばこのエリアのボス、スコルの姿が見当たらない。


 スコルの見た目は狼なので、鳥とのダブルモフモフは絵面的にいいかと思ったんだけどな。


 仕方ないのでかわりに鳥たちを映しておこう。


 エンシェントコカトリス、メガロスハルピュイアたちが俺を見て翼を広げてあいさつをしてくる。


 どちらかというと格上のジャターユ相手にしてるのかも?

 ジャターユの実況を聞きながら撮影ポイントを動かしていく。


 鳥と木もいいけど、このエリアには泉もある。

 冷たくて美味しく、そのまま飲んでも腹を壊さないやつだ。


 俺が移動すると、何匹かモンスターが泉の水を飲んでいる。

 俺たちを知ってる個体なのか、逃げることもなく、敵意を見せることもない。


 ……俺だって別にすべてのモンスターを識別して覚えてるわけじゃないからな。

 ひとりで行動するよりもジャターユがついてきてくれてるほうが安心だ。


 飲むのはまた今度にしようか。

 そんなに喉も乾いていないし、そろそろ帰りたいし。


 撮影を終えたところでふーっと息を吐き出す。


「なんか疲れたな。声は出せないし」


 出したらジャターユに頼んだ意味がなくなってしまう。

 

「では自分でしゃべってみるのもよいのではないか?」

 

 とジャターユが肩にとまったまま提案してくる。


「声を出すのってなんかいやなんだよ」


 人気出ないかぎり身バレの危険はないんだろうけどさ。

 

「声色をかえればいいではないか」


「ああ、なるほど」


 ジャターユが言いたいことをようやく理解した。

 声色をかえてくれるタイプのモンスターなら、心当たりはいくつもある。


 彼らに協力を頼めばクリアできる問題だったか。

 

「今さらは無理かも。ジャターユみたいなしゃべり方は無理だし。もっと早くに気づけばよかった」


 俺はがっくりと肩を落とす。

 しゃべらないほうが楽かなって思ってた瞬間がありました。


「ふむ」


 ジャターユはなにか考えたようだけど、それを言葉にはしなかった。


「いったん帰って休んだらどうだ?」


「そうだな」


 ここには当たり前だけどWi-Fiがない。

 動画をアップするのも、反応を見るのも部屋に戻ってからだ。

 

 ……やっぱり反応を見るのは晩ご飯を食べてからにしようかな。

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