第5話「戦力計測メガネ」

 学校に行くとさっそく山野に話しかけられる。


「なーなー、これ知ってる?」


 と赤色のメガネを指さす。

 そう言えばこいつ普段はメガネはかけないな。


「知らない」


 正直に答えると笑われた。


「だろうな。これ、戦力計測アイテムのひとつなんだよ」


 と山野は自慢そうに教えてくる。


 戦力ってなんだろう?

 疑問に思っていると、


「不死川の戦力は──計測不能か」


 山野の表情が獲物を見つけた猫みたいにゆがむ。


「たしか生まれての赤ん坊みたいに、弱すぎると測れないんだよなー」


「つまり不死川は赤ん坊並みに弱いってことか。だっせー」


 山野と大前がぎゃははと楽しそうに笑う。

 まあ、驚きはない。

 

 だからダンジョン配信で戦闘は避けたんだから。

 クーが戦うなら映像で映えるかもしれないけど。


 いや、ダメだな。

 クーはあきらかにほかの連中より強い。


 ジャターユあたりが無難かな?


「俺なんて戦力4なんだぜ」


 考えごとをしていると山野が自慢してくる。


「なぁ、おまえ、どんな気持ち?」


 だから戦力ってなんだよ?

 何が言いたいのか理解できない。


 ニヤニヤしてる山野への返事に困ってるうちにチャイムが鳴る。

 舌打ちしながら彼らは自分の席に戻っていく。



 放課後、曇り空の下、俺はひとりで帰りながらやっぱりダメか、とふり返る。

 アマテルの名前で投稿した動画、誰も話題にしていなかった。


 がっかりしたわけじゃないけど、ちょっと残念に思っている。

 期待していなかったはずなのに、我ながらふしぎだ。


 自宅に来ると放し飼い状態の犬たちが迎えてくれる。

 躾した甲斐があって吠えずに尻尾ふるだけだ。

 

「ただいまー」


「おかえり」


 クーが玄関から出てきて声をかけてきた。

 家の中に入ってから、


「ちゃんと玄関から出てきてえらい」


 とほめておく。


 彼女は物理的な制約を無視できるらしく、瞬間移動みたいなトンデモ芸当を普通に使うからだ。


「わたしに不可能はない。学習する」


 クーは得意そうに胸を張る。

 

「うん、助かる」


 彼女は実際飲み込みが早い。

 いまなら油断しなければ人前に出ても大丈夫かもしれない。


 部屋に行こうとしたら、キッチンからいい匂いがして足を止める。


「母さんはいないはずだろ? クーか?」


「うん」


 クーはうなずいてからまた得意そうな顔になった。


「やまとのためにおやつをつくってたんだ。いっしょに食べよう」


「お、サンキュー」


 クーは気が向いた時しかお菓子を作ってくれない。

 だからこういう日はうれしいサプライズだ。


 俺が頼めば作ってくるのかもしれないけど、なんとなく気が引けるので、試したことがない。

 

「手洗いうがいを。ニンゲンはすぐ病気になる」


「母さんみたいだけどちょっと違うな」


 クーの言い方に苦笑しつつ指示に従う。

 こういうときの彼女は面倒見のいい姉みたいだ。


 人外だけど。


「お、今日はシュークリームとチョコレートケーキか」

 

 キッチンのテーブルの上に並んでいるものを見て、腹の虫が鳴る。


「がんばった」


 クー、和風な見た目するのに好んで作るのは洋菓子だ。


「本当なら冷蔵庫に入れてほしいんだけど」


 梅雨はまだとは言え、常温で放置はこわい季節である。


「わたしの魔法のほうがれいぞーこよりも優秀だぞ」


「だよねー」


 クーの言葉は事実だった。

 しかもクーの力を使うだけなので、電気代がかからないのもメリット。


 両親が許すなら冷蔵庫を捨てて彼女に全部任せたいくらいだ。


 今どき家に冷蔵庫がないなんて疑問に持たれるだけだから、許可は出ないだろうけど。


「さあ、腹いっぱい食べろ」

 

 クーは張り切った様子でうながす。


「いや、晩ご飯も食べないと……」


 両親にバレるとあとがこわいし、クーは隠しごとが下手だからな。


「む……まあ保存は任せろ」


「うん」


 わかってくれて何より。

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