第2話「クモのクーと鳥」
「なにしてるの?」
クーのこの質問はちょうどよかったので事情を話す。
「ニンゲンってふしぎなことを考えるのね」
クーはきょとんとする。
彼女にはそう思えるんだろうな。
そもそも思考形態が違うんだろうし。
「それで、わたしはなにをすればいいの?」
黒曜石みたいな瞳に期待が宿っている。
「クーの出番はないかな」
「なぜ!?」
ショックを与えたみたいだけど、当然のことだ。
「人になって会話もできるクモなんて、世間に出せるわけないだろ」
俺がちょっと調べたかぎり、人と会話できるモンスターはいない。
すくなくとも動画で取り上げられてないのだ。
「役立たずの下等生物どもめ……」
クーの声が小さくて聞き取れないけど、不穏なことを言ってるのは気配から伝わってくる。
「は!? ずっとこの姿なら出てもいいのでは!?」
クーは名案が浮かんだと手をたたく。
ちゃんと人に見えるけど。
「やっぱりやめておこう」
「なぜ!?」
ガガーンとつけ加えたあたり、さっきよりショックが大きいらしい。
「クーを出すとほかの奴を出さないってのは難しくなりそうだから」
クーだけ特別あつかいってかわいそうだからな。
「くっ、やはり、やつら始末しておくべきだったか……」
何やらぶつぶつ言っているがやはり聞き取れない。
「なんでそんな出たがる?」
動画配信なんて、クーからすれば理解不能の行為だろうに。
「やまととわたしのことを世間に知らしめる絶好の機会とみた」
キリっとした表情になって彼女は答える。
漫画だった目がキランと光りそうだ。
「そんな機会はなくてもいいのでは?」
クーのことを説明すること自体が無理難題なんだ。
必要にならないことを祈ろう。
「やまとが冷たい!?」
なにやらショックを受けているクーを放置して、作戦を考える。
まず自宅は映さない。
次に俺自身のことも映さない。
自宅の外(とくに地上)も映さないほうがいいな。
「しゃべりはどうしようかな?」
調べたかぎりだと実況している人が多かった。
そのほうがライブ感が出て、リスナーの支持を集めやすいらしい。
俺に実況なんてできるかな?
ちょっと試してみたいとは思う。
「声ならジャターユにたのめばいいよ」
とクーに指摘される。
「あいつがいたか」
俺はぽんと手を叩いて、指笛を吹く。
たちまち一羽のフクロウみたいな鳥が飛んできて、俺の右肩に止まった。
「よんだか?」
しぶいおじさんみたいな声でジャターユが聞く。
彼はオウムみたいなものなので、しゃべってもそんなに驚きはない。
まあ見た目はフクロウなのにとは思うけど。
「ああ、俺のかわりにしゃべって欲しいんだよ」
と事情を話す。
「お安い御用だ」
ジャターユは快諾してくれたので安心した。
「じゃあまずは一回やってみよう」
ダメだったら考えればいい。
いきなりアクセス数を稼ぐなんて無理だろうけど。
「わたしもついていっていい?」
とクーが聞いてくる。
「クーはダメだよ」
「むー」
俺の返事を予想していたのか、むくれてしまう。
クーはほかのモンスターたちから怖がられているみたいなのだ。
ジャターユみたいに俺の部屋まで遊びに来るやつをのぞいて、ダンジョン内にいる連中はみんな隠れてしまう。
「クーがいると、ただ建物内部を映すだけになっちゃいそうだからな」
「言えてるな。おまえは来ないほうがいい」
ジャターユも俺に同意する。
「くっ、あのザコどもめ」
クーは悔しそうにうなった。
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