第3話「初めての撮影」

「どこから行く?」


 ジャターユに聞かれて迷いながら候補を絞っていく。


「刺激が強くなさそうなところがいいよな」


 犬や猫ならきっと苦手な人はすくないだろう。

 虫はどうかな?


「蝶やカブトムシくらいなら平気かな?」


「人のことはよくわからん。おまえに任せる」


 ジャターユの言うことはもっともだ。

 彼もクーも基本、俺と家族くらいしか接することがない。


「じゃあ無難に一階層から行こう」


 俺の部屋から近いし猫たちもいる。

 猫をきらいな人はすくないだろう。


「テキトーにしゃべってくれる?」


 とジャターユに頼む。

 

「まあやってみよう」


 俺が猫、犬、ダンジョンをスマホで映すと、合わせるように話し出す。

 なかなか器用なやつだ。


 一階層はとくに特徴はない。

 犬と猫がいるくらいでワナなどはないのだ。


 きっと存在さえ知られたら、配信目的の人でにぎわうだろう。

 それともレベルが低くて人気でなかったりするかな?


 ダンジョンなら人気でるってわけじゃないもんな。

 ……ジャターユが俺のかわりにしゃべってくれてるので、声を出せない。


 思ってたよりもつらいかも。

 一階をあるていど撮影し終えるといったん休憩する。


「どんな感じだろうね?」


「わがはいには想像もつかんな。ただ撮ってるだけではないか」


 ジャターユの返事はもっともだった。

 

「そうは言っても戦いは好きじゃないからなぁ」


 とぼやく。

 ダンジョンが家にあるので、万が一に備えてと戦いは教わっている。


「それにここだと顔なじみが多いし」


 何年も過ごしていると見慣れたやつはかなり多い。

 

「知らないやつなら戦ってもいいけど。あと撮りながら戦うのって難しそう」


 どっちかというと後者の理由のほうが大きかった。

 戦いながら撮影してる人、どうやってるんだろう?


 やってみてわかる疑問ってあるよな。


「これからどうするのだ?」


 ジャターユの問いに


「評判次第だね」


 即答する。

 誰も見てくれないなら、モチベーションが続かないと思う。


「そうではなく、撮影とやらは終わりか?」


「おっと」


 質問の意図を読み違えたか。


「今日は終わろうかな。いきなり注目なんてされないだろうし」


 成功するかわからないのにがんばるほど、俺のモチベーションは高くない。


「ふむ。ではほうびをもらおうか?」


 とジャターユが要求してくるのは予想していた。


「ああ。肉でいいよな?」


「かまわない」


 話はまとまった。

 もちろん俺じゃなくて親が用意したもの。


 俺の分のおかずをわければいい。

 部屋に戻るとクーが出迎えてくれる。


「はやかったね」


「いきなりがんばってもなぁ……」


 うちのダンジョンがバズるなんて考えにくい。

 ちょっとこづかいを稼げたらいいな、と思うけど。


「がんばらなくてもわたしがいるのに?」


 クーがふしぎそうに首をかしげる。

 

「いや、それはちょっと」


 クーの見た目は美女だけど、本当はクモだ。

 クモに養ってもらうってどういうことってなる。


「えんりょしなくてもいいよ?」


 とクーは言ってくれるけど。


「あ、ジャターユのほうびに肉をあげたいんだけど、とりに行ってくれる?」


 せっかくだから甘えようかな。

 役に立ちたいオーラをなんとか発散してほしいし。


「ちがう、そうじゃない」


 クーはなぜか残念そうに否定する。

 なにがダメなんだろうと考えて……。


「いっしょに行く?」


「いく」


 クーは即答したし、機嫌もなおった。

 よかったよかった。


 ジャターユにお礼の肉を渡してから動画をアップしてみよう。


「アカウント名、考えなきゃな」


「名前? アマテルはどう?」


「いいね。和風っぽいし」


 クーはけっこうセンスいいと目を丸くする。

 さっそく採用しよう。


「人気出たらいいけど……」


 いますぐじゃなくて、いつかでいいから。


「あいつら弱すぎてむりでは? ニンゲン、こわいものみたいんじゃないの?」


 とクーに質問されて、ハッとなる。

 そうか、こわいもの見たさで集まる客を狙うって手もあったんだ。


 クーの本来の姿は──刺激が強いかな?

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