第1話「自宅のダンジョン」
「ダンジョンチューブなんて、知らなかったなー」
放課後、俺はぼっちで下校する。
「ダンジョンにはドリームがあるんだ」
という山野の力説が頭から離れていかない。
「ダンジョンに夢なんてあるのかなー」
いまいちピンとこないのは、俺の自宅がダンジョンだからだろう。
家の敷地にダンジョンの入り口があるとか、近所にダンジョンがあるって人はけっこういる。
だからいままで誰にもこのことを話していない。
「そんなの珍しくもない」と言われるだろうから。
まあ話す友だちなんていないけどさ。
「ただいまー」
とあいさつをすると、庭にいる犬たちがワンワンと返事をくれる。
顔のこわい大型犬だけど、なついてるし頭もいい。
全員の頭をなでてから自分の部屋に向かうけど、地下にあるのでちょっと面倒だ。
ダンジョンから発生するモンスターたちのなかで、人と共生できる種とは共生するってのが我が家の考え。
つまりある程度はモンスターたちの事情に合わせた作りだ。
廊下を通るとヘビやクモたちが、それぞれのやりかたであいさつをしてくる。
苦手な人にはつらい絵面なんだろうなあ。
かれらのおかげで害虫や犯罪者の脅威を心配しなくていいので、慣れたら頼もしく思えるんだけど。
俺の部屋は地下の一階にあって、近くには猫たちがいる。
ストレス発散にモフモフは最高なので、モフモフさせてもらう。
家猫は名前を呼んでも来ないって話を聞くけど、かれらは全然そんなことない。
「ダンジョンチューブ、調べてみようかなぁ」
自宅を撮影するだけでこづかいが稼げるなんて、そんな上手い話がある?
と半信半疑だった。
だからまずほかの人の配信を見てみようと思う。
……思ったより普通だな。
ダンジョン内部を映したり、あまり強くなさそうなモンスターを映してるだけなのに、アクセス数を稼いでる人がいる。
もちろん全員が上手くいっているわけじゃなくて、全然みられてない動画もあるわけだが。
イメージしていたよりも、参入ハードルが低そうなのは間違いない。
「いや、そうでもないな。俺に動画編集なんてできないだろうし」
単に動画を撮影してアップするだけだと、意味がないんじゃないか?
と思っていたら、ダンジョンチューブにはどうやら編集してくれる機能がついているようだ。
「便利すぎじゃないか?」
疑問はやがて解ける。
ほかにも似たようなツールが存在していて、そっちには編集機能がなかった。
「競合に勝つために便利な機能をつけたってことか」
なるほどなぁ。
「インストールするだけで簡単に使えるのか……ダメもとでやってみようかな」
スマホさえ持っていれば元手はかからないらしい。
学生にはありがたい。
ほかにダンジョン探索に必要なものは自前で用意するみたいだけど、自宅を撮影するだけだしなぁ。
別に何も用意しなくてもいいか。
もし、動画がバズらなかったら赤字なんだから。
身バレには気をつけたいけど、うちのダンジョンに探索者なんて来たためしがない。
自分やご近所さんが映らなかったら特定されない気がする。
「やまと、おかえり」
そこに女性の声が聞こえた。
「クー?」
大きなクモが部屋に入ってきて、着物姿の黒髪お姉さんに変身する。
「変身してから入ってくればいいのに」
律儀なことだ。
「この姿のほうが、ちょっと動きにくい」
言われてみれば、クーの動きはちょっとぎこちないかも?
クーはきれいな頬を俺の頬にくっつけてくる。
「ニンゲンのメスの匂いがする」
なんて指摘された。
毎度のことながらふしぎだ。
「クモに嗅覚なんてあるのかなぁ?」
「わたしに不可能はない」
お決まりの言葉を笑顔で返される。
まあ人間になってしゃべってる時点で──とは思う。
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