バズった?最強種だらけのクリア不可能ダンジョンを配信? 自宅なんだけど?
相野仁
プロローグ
「不死川、もしかしてダンジョンチューブを知らないのか?」
前の席の山野がちょっとバカにした顔になる。
盛り上がりについていけないことがバレバレだったか。
「あ、ああ。何だそれ?」
俺は見栄をはっても仕方ないと正直に認めた。
「ダンジョンはさすがに知ってるだろ?」
「ああ」
上野と仲いい大前にいやな聞き方をされたけど、ガマンする。
地球の歴史はダンジョン以前とダンジョン以後にわけられるって、小学校の教科書で習うレベルだ。
「そのダンジョンを探索して、モンスターと戦うところを撮影して配信できる、専用アプリがあるんだよ」
比較的温和な村上が教えてくれた。
「へー、それがダンジョンチューブか」
「人気配信者なら再生回数が何百万っていくんだよ」
感心した俺に村上が補足する。
「それはすごいなぁ」
「不死川、おくれてるー」
山野が嘲ってきたがこれは否定できない。
「アプリダウンロード数、国内だけで2000万超えたって話なのに、マジで知らないんだな」
大前に揶揄される。
「俺ら、稼いでいるんだぜ」
「月8万くらいだから、こづかい程度だけどな」
山野と大前は言葉で謙遜しても得意満面の笑みを浮かべていた。
「ほんとはもっといけるけど、親には扶養はずれるなって言われてるからなー」
俺たちツレーわ、なんてふたりは言い合う。
「ふたりともすごーい」
話を聞いていた女子たちがふたりに群がり、ちやほやする。
そうなると俺が輪からはじき出されてしまう。
「あいつら」
近くにいた烏山さんたちギャルグループが舌打ちしながら、俺を輪に入れてくれる。
「災難だったね」
「あんたはあんたでちょっとくらい言い返しなよ」
同情的な烏山さん、無抵抗な俺もよくないという楠田さん。
グループの反応はだいたいこのふたつだ。
「言ってもムダかなと思ってね」
あははと力なく笑う。
「抵抗しないからって場合もあるんだよ?」
「あいつらはたぶんそうだよ」
と烏丸さんと楠田さんが言う。
言われてみればそうかもしれなかった。
だからといって行動をかえる気はなんとなく起きないけど。
「……不死川くん、ほら、ポッキー食べる?」
と甘い声で聞いてきたのは甲斐谷さんだ。
前かがみになると、はちきれそうなブラウスの盛り上がりが強調される。
本人は無自覚なのか、それとも気にしてないのか。
「ありがとう」
甲斐谷さんの可愛いらしい顔立ちと、差し出されたおやつに目を向けるように集中する。
女子は視線に敏感らしいし。
「ちっ」
後ろから男子の舌打ちが聞こえてくる。
烏丸さんと楠田さんがじろっと見て、ふんと鼻を鳴らす。
俺の背後でなにがあったのか。
気付かないふりをしよう。
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