28話 姫たちの密談



「メルさん、私はその……配信が始まれば少し殺人狂のようなキャラを演じますがご了承いただけますか?」


「もちろん、いける」


「ナンだか配信者ッテ大変ですネ」


 メルの誘いを断った僕だけど、ひとまずはメル、ウタさん、ノンさんの3人と合流していた。

 なぜなら【屍姫しきネクロマリア】は僕だ。そして、その討伐隊に3人が加わる以上、誤ってキルしてしまったら後味が悪い。なので、3人がどの辺で戦う予定なのかとか、あわよくば討伐隊の情報を詳しく仕入れておきたいって思惑もあった。


 そんなわけで人気の少ない酒場の一角で、ヒソヒソ打ち合わせをしている三人と同じテーブルに着いている。

 いつもは賑わいを見せる酒場も、今ばかりは【剣闘市オールドナイン】の外で【屍姫ネクロマリア】の討伐隊編成のため閑散としているようだ。


「では改めまして————」


 コホンッと咳払いをするウタさん。

 彼女は僕の頭を凝視する。


「あの、ルンちゃんさん! そ、その、頭の上におられるお可愛らしい生き物は一体……」


「すごク、高ク売れソウです!」


「幼竜のピナという。みな、よしなに」

「ぴいいい!」


「あっ、はい……! えっと、幼竜……ドラゴンの赤ちゃんさんで、えと、えええええええ!? ドラゴンをテイムしたのですか!?」


「ホシい! トッテモお金になりそう!」


「ピナ、可愛い、売る、ダメ」


「それよりもだ。は討伐戦に参加しないが、少しでもそなたらの助けになるようこの品を授けよう」


 僕が出したのはもちろん先ほど作った【月光呪の剣 ★★☆】だ。


「タイプ:片手剣であるからノンしか扱えないだろうが、必要ステータスは力5と色力3で高めである。無用の長物ならば売りさばいて、新装備の軍資金にするがよい」


「ルンちゃんさん……これ、ステータス補正:力+4と色力いりょく+2!?」

「★つきボーナスで実質、力+5、【白染め】ってユニークスキルつき」

「ノンノン! コンナすごイ武器受ケ取れナイです!」


「売れば金貨13000枚はくだらないですよ?」

「おに、うちのルーンちゃん、すごい!」

「ゴクリ……13000円ですカ!?」


「遠慮するでない」


 芽瑠に万が一があっては嫌なので、そこは周囲の戦力を固めるしかない。

 本当はメル本人の武器や、ウタさんが扱う短杖も見繕いたいところだけど、今の手持ちではどうにもならないのが現状だ。

 それに施し過ぎるのもよくないだろうから、剣一本ぐらいがちょうどよいと思う。


「おに、ルーンちゃん、こう言ってる。ノン、うけとる」

「ノンちゃんさんはステータスの装備条件は満たしているのでしょうか?」

「ノンノン! と言イタイトコロデスガ、揃ッテます! る、ルーンはナニが狙いナノです!? こ、コンナにも優シクするナンテ裏がアルハズです!」


「ふっ裏か。確かにある。端的に言えばそうよな……」


 僕の言葉に3人は一斉に耳を傾けた。


「可愛いは不滅である。そなたらにキルされてほしくない、ただそれだけよ」


「おに、ルーンちゃんキザ」

「はわあああああルンちゃん師匠……可愛いは不滅ですね!」

「ナッ、ノンが……カワイイですカ……?」


 メルはジト目で、ウタさんは明後日の方向に祈りを捧げ初め、ノンさんは顔を真っ赤にしていた。


「とはいえ余の支援など微々たるものよ。肝心なのは共に戦う者どもよな。時に敵よりも厄介なのが味方になりえることもあろう」


 なんて言ってはいるけど、この辺で討滅隊の規模やどんな転生人プレイヤーが集結しているのか情報収集をしておきたい。



「中央は集団戦に強くて、今回の討伐隊を発案した【神殿騎士団イェントリ】が陣取るそうです。心強くもあります」

「副団長のコンゴウ、出張ってる」

「モンスターを狩ル効率ガ良クテ、ダイブ儲かってイル人達ですネ」


「西側は、個々での戦力のお話になりますが、最近ワールドアナウンスで一躍有名になられました、【絶姫】エクシスさんもいますので安心でしょう」

「もともと闘技場で、有名、強い剣闘士」

「スゴク稼イデルです」


「そうなると、私たちリスナーさんの誘導は東からだとバランスが取れていますね?」

「うちの子たちと合流、厚み増やす。リスク減る、OK?」

「ノンノン、ナリヤとの決闘前ダカラ、モット強くならないとです。ハイリスクハイリターンです!」

「ノンちゃんさん。危険な場所に踏み込みすぎて、もしキルされてLvが下がったりしたら、ナリヤさんたちとの闘技場での戦いが不利になりますよ?」


 どうやらメルたちは討伐隊の東、つまり右翼から【屍姫ネクロマリア】の捜索を始めるっぽい。

 というか先日、揉めて僕がキルしちゃった転生人プレイヤーと闘技場で戦うの?



「ナリヤ、と言ったか。そやつと闘技場で戦うのか?」


「あの人、3対3の試合、ノンに申し込んできた」

「ひどいお話ですよね……お相手さんは全員が元パーティーですし、ノンさんがメンバーを集められなかったら3対1の構図ですよ?」

「ソノ件に関シテは感謝シテルです」


 てっきりあの様子だとメルとナリヤさんの一騎打ちかと思いきや、どうやらメル、ウタさん、ノンさんの三人でナリヤさんたちに立ち向かうらしい。


「みんなで頑張って勝利を掴みましょうね」

「絶対にキルする。ノン、ぶちかます」

「……モ、モチロンです!」


 ノンさんはどこか緊張した面持ちだった。

 きっと彼女は自分が原因でみんなを巻き込んでしまったと感じているのかもしれない。



「あれー? ノンじゃねえか!」


 唐突に僕たちのテーブルに声を落としたのは、噂の御本人ナリヤさんだった。

 彼は僕らを小ばかにするように睥睨してニヘラっと笑う。


「ノンと、なんだあ? ちびっこばっかりじゃねえか。ろくなメンバーが集まんなくて、ガキ友達を必死に集めたってか? ん……隣のやつはどこかで見たような……」


 ナリヤさんはメルを凝視するも、その正体まで把握できなかったようだ。

 しかもあの時は絵描き魔法でメルは壁色に塗れていたから、同一人物とも気付いてないっぽい。


「噂をすれば、でしょうか」


 ウタさんは溜息をつきながら、ナリヤさんを軽くあしらおうとする。

 しかし彼は執拗に絡み始めた。



「相変わらず貧相だなあ、ノン? 見ろ、俺の装備を。前にキルされたからLvは下がったが、装備で十分補える! 圧倒的な財力が成せる業物ばかりだぞ?」


「ご立派な装備に頼ってばかり。課金厨、PS低かったりする」


「おい、そこの小娘、試してみるか?」


「上等、五日後、首を洗って待つ」


「はっ、もちろんノンも闘技場に出るよなあ?」


「…………」


 ナリヤさんに問いかけられたノンさんは口元をキッと引き結び、答えようとはしなかった。

 強気そうな彼女にしては珍しい反応だ。


「お? やっぱビビってんのか? 【無法と栄光の闘技場ホーナー・オア・デス】じゃ、敗者はLvどころか全てを勝者に奪われるもんなあ。その分、勝った時のリターンはデカいんだから、勝つ自信があるならビビる必要はないだろ?」


「…………」


「だんまりかよ。こりゃダメそうだな。装備も、前見た時と比べて大して変わってなさそうだし……相変わらず貧相な————」


 ナリヤさんの視線がふと僕がノンさんにあげた剣に止まる。


「……なんだ、その剣? 見た事ねえな……」

「自慢厨とは、無縁の剣」


 何かを詮索しようとしたナリヤさんを押さえつけたのはメルだ。


「言ってろガキが。俺らはこれから【冠位者ネームド】狩りに参加する。成功すれば、レア度の高い武器だって手に入るかもしれねえから、ノンが持ってる剣なんてどうでもいいわ」


「……あなたも参加するのですか」


「お? お前らも参加するのか?」


 ウタさんの問いにナリヤさんは笑みを深める。

 そんな彼に対して、三人は不穏な空気を感じたのか口をつぐんだ。


「「「………」」」


「はっ、いいねえいいねえ。今回の狩りは面白くなりそうだあ。勢いあまってガキどもを狩っちまわないとも限らないからなあ」


 ナリヤさんは特にメルとノンさんを見つめる。


「せいぜい背中には気を付けるんだなああ?」


 悪役みたいな捨て台詞を吐いて酒場を出ていくナリヤさん。

 そして僕も彼を追うようにして席を立った。


「あのような輩に気を割く価値などない。おそらく【亡者】どもの贄となろう」



 あの調子では、いつ戦場で背中から刺してくるかわからない。

 それにうちの可愛い妹を脅した代償もキッチリ支払ってもらおうかな……そう、メルたちに手を出す前に、こっちで完全に処理してしまおう。


 さてさて、いよいよ稼ぎ時かな。

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