24話 配信者の卵
ひとまず【白き千剣の
しかし、見計らっていたかのようなタイミングでメルからフレンドボイスが飛んできた。
『お兄ちゃん、鍛冶するなら、一緒する』
『そうは言ってもな。初めての試みだし、見ていて退屈なだけよな』
『宣伝、大切』
意味深な一言でフレンドボイスは途切れ、ふと前を見れば炉のすぐ近くにメルがいた。
「おまっ、びっくりするであろう」
「壁と同化、ペイント、護衛に便利」
ストーカーという言葉が出かかったが、やめておいた。
きっとこのゲームではやれることがたくさんあって、ほんの少しだけはしゃいでしまったんだろう。
我が妹ながら子供らしいというか、可愛らしいというか。
「であるならば我が護衛として、とくと見るがいい。【精錬】をな」
「わかった。配信する」
「そう、配信————ん!? 配信!?」
「めるめるめるるーん、よめるめるの配信。みんな、やっほ」
おいいいいいいいいいいいいいい!?
究極のマイペースで唐突に配信を始めた我が妹様に、さすがの僕も驚愕である。
いや、確かについ先日、一緒に配信する約束うんぬんみたいな話はあったけどさ!?
こんな突拍子もなく始めたりするか!?
仮にもフォロワー数300万人のクリエイターでしょ!? 入念な準備とか覚悟とか諸々あるんじゃないのか!?
「【転生オンライン:パンドラ】初配信。みんなに、家族、紹介する」
僕の動揺なんて見えてないのか、メルはなぜか僕を手で示した。
始まってしまったものは仕方ないし、ここで妹の顔を潰すわけにもいかない。逃げも隠れもできない状況なので、僕は内心の慌てっぷりを隠してふんぞり返った。
かえってしまった。
「ルーンである」
そんな僕に対しメルはゲーム内スマホを見せてきて、そこにはコメントの嵐が吹き荒れていた。
:めるめるの初配信きたあああ!
:妹ちゃん偉そうで草
:ルンちゃんマジで可愛いなww
:めるめるの視点で配信なのなーFPS視点に近いのかー
:めるるんコラボきたああああ!
:というかめるめるも中学生のわりにスタイル抜群だけど、ルンちゃんも発育よすぎないか?
:ご立派すぎるたわわが二つも実っておられる
:しかもメイド服っぽいの着てるし、わかってるな
:普段はお仕えする身分だが、夜は偉そうにマウントとってくるとかあああ
:ロリ巨乳メイドに搾られたい
:俺も上に乗ってほしい
:ドMには最高だな
:キモいコメントやめろwww
「今日は、家族、鍛冶する」
「せっ、【精錬】をするのである。みな、とくと見るがいい」
もうどうにでもなれの精神で、僕はいよいよ【精錬】を開始する。
まずは【剣闘市の炉】に近づき、集めた鉱石を一つ取り出す。
————————————
【月光呪の白石】×32
『月樹神アルテミスの呪いと、不死者の骨が混じりあった石』
『レア度:C』
————————————
安くとも金貨1000枚で取引きしてもらえる素材が大量に手に入ったのは嬉しい。
まずは実験感覚で【剣闘市の炉】へ【月光呪の白石】の1つを入れようとする。
しかしその動きを中断する。
「もし……失敗したら、もったいないのである……」
そこでぼくは頭をひねる。
うーん、うーん、うーん……知らないことはすぐに調べるか、人に聞け! ってクラスメイトの弓塚がよく言ってたっけ。
せっかくなら妹のリスナーに話題を振るべきかな?
:なんで鍛冶場っぽい所で配信?
:こんなところ【剣闘市オールドナイン】にあったか?
:鍛冶? するらしいぞ
:へえ
:生産ってゴミしか作れないって話だよな
:ちょ、おまっ、空気読めってw
:読めるんの俺たちは何でも読めるーん!
:やっぱ武器でも作るーん?
:え、ルンちゃんのそんなふにふにな細腕で鉄とか打てるの?
「ふむ……はじめてのことばかりで勝手がわからなくてな」
:うん、かわいい
:その手に持ってる白い石をどうにかしたいん?
:まずは不純物を取り除く【精錬】作業からか。その石を熱して溶かせばいいのでは?
:あんな鉱物素材は見た事ないな
:なら素材に適した時間、適した温度を模索してくしかないのかー?
:溶かしたらそこにある
:まずはインゴット作りってやつか
あ、たしかにすぐ
どうやらこれらの工具を使って精錬しろということらしい。
僕はトングで鉄釜を掴み、そっと炉の中へ【月光呪の白石】を入れる。
「温度は4度から1000度に設定できるゆえ……じゃあ、まずは中間の500度でゆこうぞ!」
これは……単純そうに見えて意外に奥が深いのでは?
鉄釜の中がゆっくりと赤熱色に染まり、溶けてゆく【月光呪の白石】を眺めながらそんな風に思う。
:どれぐらいの時間、500度のままにするべきか
:そこから温度を上げるのか、下げるのか……
:そもそも【炉】の種類によっては設定できる温度の限界が2000度とかもあるらしい
:おまえら真剣に鍛冶作業見てるのすごいな
:いや? ほとんどぷるんぷるんに目が行ってる
:だよなwww
:めるめるの視覚が常に下向きだからwwww
:でかすぎるぷるるんがどうしても視界に入るww
:最高かよ
:ってか、巨乳って本当に足元が見えないんだな
:めるめるもでっかいなあ
:普通に鍛冶やり辛そう
なるほど。
どんな炉を使うかでインゴットの出来栄えが変わる要素もあるのか。
「むーん……ここだ!」
なんて威勢よく鉄釜を炉から出し、鋳型に【月光呪の白石】だった液体を流してゆく。赤く光る液体は鋳型に入れば、しばらくジュワワワワッと音と煙を発生させ続けインゴットへと変化した。
:【月光呪の白石】インゴット★☆☆ができあがりました:
「ん、む……? 星1……? これはもしかしてあまり出来が良くない!?」
僕はそんな調子で何度も試行錯誤を繰り返し、インゴットを生成していく。
もちろん時折、視聴者さんの意見に目を通すのも忘れない。
「開始10秒は300度の弱火、そこから徐々に750度まであげルーン!」
よくわからないリスナーさんたちの文化に則って、語尾はできるだけルーンをつけるように喋った。
妹の配信のためとはいえ、そこそこ気恥ずかしい。
しかし、じわじわと溶けた【月光呪の白石】が赤から白光を放つにいたる、その瞬間! 希望は花開く。
「今よな! 一気に500度へ下げるーんっ、そして最後の20秒も500度を保つ!」
じわりじわりと額に汗がにじみ、僕は『精錬』にドハマりしていた。
金属が熱に溶けて煌めき、輝きながら姿形を変える様は圧倒的に美しかった。そしてそんな金属の運命を決めるのは己の腕次第。
そうともなれば、より美しく、より素晴らしく、より硬い棒を生み出したいと願うのは業腹かな?
「いや!
:【月光呪の白石】インゴット★★☆ができあがりました:
研究に研究を重ね、最後の一つになっても最高の出来栄えには一歩届かなかった。
おそらく【炉】の限界温度に原因があるのかもしれない。
「可愛いは、充実であるな」
それでも妙な充足感に満たされた。
:ルンちゃんがすごく硬そうな棒をつくった
:棒を握る日がきた!
:いや、棒を鍛える日が……
:俺の棒も鍛えてくれないかな?
:キモいコメントやめろwww
「みんな、ご視聴、ありがとう」
「うむ。みな、くるしゅうない」
「おに……ルンちゃんの作る武器、きっと強い。みんな楽しみにしてるーん」
「ふははははは、楽しみにしてるーん」
「でもみんなの力、必要。生産の詳しい情報、何でもほしい」
「うむ、くるしゅうない」
配信ってわりと気を遣うというか、どうにかこうにか無理やり喋るので精一杯だった。それでも隣で中学生の妹が、至極淡々とリスナーに向けて話し続けているのだから、兄としても必死に食らいつくしかない。
普段は無口な妹だが、ひたむきで仕事熱心なんだなと感心してる。
「大きな話題……【月光樹の杖】……
ひたすら流れるコメントを拾いながら、有益な情報を探そうとするメル。
俺も負けじとスマホを眺めながら凝視する。
:生産とは話が変わるけど、この間のワールドアナウンス。あれ関係ですごい話題があるよ
:どんなの?
:【神話との交流】ってイベントが開放されたでしょ。あれでペットにできる存在が発見されたっぽい
:あ、それは俺も聞いた
「ペット!? くわしく、お願い」
:【世界樹の試験管リュンクス】に生息する【
:なんでもその【金冠鳥】が一日に1個だけ生む卵が、NPCに高値で売れるらしい
「金の卵、金策、美味しい?」
「ふ、む……卵とな……?」
たまごといえば、【白竜ミスライール】からもらった【白銀種の卵】って、あれ食べれるのかな?
すっかり忘れてた。
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