11話 先輩たちの噂
「フンフンフンフンフンフンフンッ……可愛いは努力!」
今日も今日とて、朝のルーティーンとなる筋トレを終えて、『
『朝活!
女装しているとフリフリの肩口から出た、もっこりと膨らむ腕の力こぶが妙に目立っている。
するとフォロワーのみんなが『相変わらず美しい筋肉』、『可愛らしい女装に包まれた筋肉最高』、『キュートでソフトマッチョ男姫シコい!』と絶賛してくれた。
ありがたい。
ありがたいことだけど、コレじゃない感を胸に秘めながら僕は学校へと向かう。
「ういっすー
「
朝の教室に入ると、いの一番に声をかけてくれたのはクラスメイトの
先日のカラオケの誘いを断った手前、少し申し訳ない。
それでも気さくに声をかけてくれる
「そういや
こういう直球なところも付き合いやすい。
「あーなんかその大学生と付き合うっぽい。僕たちは別れた」
「うあーまじか。じゃあ景気づけに女子と遊びに行こうぜ!? 晴れてフリーになったわけだし、姫路がいると女子の反応がすこぶるいいんだわ!」
あっさりと切り替えてくるところが
「あはは、考えておくよ」
「それにしても謎だ。お前は高身長イケメンで性格も和やか! 姫路を逃した元カノの考えがまるでわからないぜ」
「うーん? 甲斐性が足りなかった?」
「はっ? おいおい、もしかしてピンスタに乗ってたあの車って……画像検索かけたら1000万もするじゃねえか……え、金に釣られたってこと?」
「どうだろう? 他にも理由があったのかもしれない」
「いやいや、マジでないわー……でも1000万か……すごい奴だな」
1000万円はものすごい大金だ。
大学生の身分でそんな高級車に乗れるなんて、実家はどれほど太いのだろうか。
「おいおい、この彼氏くんのピンスタに飛んでみたけど、ただのぼんぼんやん。自分で稼いだわけじゃないんかーい。すごいとか言っちまった俺の尊敬を返せや」
「実家の力もその人の運が強いってことで、魅力のうちの一つなのかも」
「運ってお前、ゲームのステータスじゃないんだから。つーか、このボンボンはウンコだとして!」
「ウンコ呼ばわりはやめろって」
「世の中には1000万って大金を稼ぐ奴もいるのな。そういうのはすげえよなあ」
「たしかにすごい」
そういえば妹の
改めて我が妹ながらすごい奴だと思う。
「あーウンコぼんぼん野郎が! 正直うらやましいぜ! 家族が金持ちって最高だな!」
「あははは」
「あーあー姫路の知り合いに金持ちの美少女とかいたりしないか? なあなあ、いたら紹介してくれよおお」
「あははははは、ウンコを紹介してほしいのか? そういうのはいないぞ?」
「もうこの際、ウンコお嬢様でいいからよお」
「だからいないって」
うちの妹は知り合いではなくて家族だ。
さらに、うちの妹は中学生にして立派に自立している稼ぎ頭だから、ウンコでもなんでもない。
「ウンコいないんかあああ。じゃあ一緒に探しにいこうぜ!?」
傍から見れば
だけどこれは
だから廊下を歩く元カノが、あきれ顔で僕たちをチラリと見ても何も気にならなかった。
彼女の瞳から『バカで幼稚な男子が騒いでる』と、冷たい感情が伺えても、僕は心の底から笑い合えていた。
「ウンコ探しにいくとか
「だろー? ウンコにへばりついた、お前の元カノの方が面白いけどな」
やっぱり
◇
学校の終業チャイムが鳴り響くと、弓塚は満面の笑顔で僕に近づいてきた。
「この間のカラオケに
「ん? 宇佐美先輩って、あの留学してきた小学生だっけ」
「おいおい! 確かに宇佐美先輩はまだ10歳だけどな!? 成績優秀で容姿端麗だから、
「しかも気配りもできて気さくで明るくて! なんていうか、ちっちゃな美少女委員長ってあんな感じなんだろうなって思ったぜ」
「おまえもそこそこいい奴だと思うよ。顔もいいし」
「ほう、そんな俺様から
どうだ? 一緒に行かないか?
と、目で誘ってくる
「ぼくたちが行ってもいいのか?」
「幹事の|大谷先輩に誘われてるからな。弓塚くんも来ないかって」
さすがは
宇佐美先輩に興味はないけれど、先輩たちの視覚的情報は女装の参考になるはず。そんな変態じみた思想をひた隠しながら、僕はしれっと
「誘ってくれてありがとう。喜んでいくよ」
「っしゃああああ! 姫路が隣にいると、俺までイケメンって枠組みに入るから最高だぜ!」
「僕なんかいなくても
「はっ、褒めてもなんもでないぜ! ウンコは出るけどな!」
こうして
よくよく見るとそこには僕の元カノもいて、傍には立派な高級車が留められていた。
「大学生の彼氏が迎えに来てくれたんだって!」
「わああー羨ましいなあ」
「でも
かしましい女子たちのおかげで状況はすぐに把握できた。
「ガチでウンコ出ちゃったぜ」
もちろん隣を歩く
そんな僕たちの努力も空しく、元カノを迎えに来ていたご本人様がこちらに気付いてしまった。
「え? なにい? あれが
大学生の彼は容姿も整っており、スラっとした体型だった。
身長も180cm前後はありそうで、天に二物も三物を与えてもらったような人だ。
そんな彼は堂々とこちらに歩み寄っては、ニヘラっと笑いかけてきた。
「こんにちは、
「はじめまして」
「おい、
だから無難な会釈とともに、その場を手早く離脱するつもりだった。
「俺は
「
「そのガタイで姫って笑えるわあ。それにしても元カレ君はでっかいねえ。甲斐性は小さかったみたいだけど」
「はあ、まあ」
「キミみたいな貧乏人ごときが俺を見下ろすのは良くないよねえ。ゴミ処理業者を呼びたくなっちゃうなあ、歩く粗大ゴミがうろちょろしてるって」
「はあ、まあ」
「そんなわけで俺の視界から、
「はあ、まあ」
「……てめえ、大学生だからって偉そうに何言ってんだよ」
僕の代わりに怒ってくれる
だからこそ彼をこのイザコザに巻き込みたくなかった僕は、『いいから』とその場を収めて、そそくさと成宮さんと元カノから離れる。
まあ僕たちが近づいたわけじゃないんだけど、ここは穏便に帰宅する方がいい。
「……フンフンフンフンフンフンッ!」
家についてからは、いつも通り筋トレをして女装やメイクについて研究する。
すればするほど、僕が理想とする『可愛い』になるのは不可能だと、現実が絶望を囁いてくる。
それでも僕にはオアシスがあった。
乾き切って干からびた願いを潤してくれる場所がある。
「……やはりこの姿は可愛らしいのである」
『転生オンライン:パンドラ』にログインすれば、自キャラが魔王城の玉座の間に鎮座している。
傲岸不遜な表情を浮かべてみても、不安に揺れる瞳になっても、何もかもが愛くるしかった。
「魔王様、おかえりなさいませ」
「魔王さまー今日も人間たくさん喰うがうかー?」
「マオウサマのアンデッドグンダンをツクリマスカ?」
【堕天使ルシフェル】、【獅子姫レオーネ】、【千夜の語り部リッチー】などの三魔将が今日も僕を出迎えて、
そんな彼ら彼女らの言葉に耳を傾けながらも……なんとなく
『世の中には1000万って大金を稼ぐ奴もいるのな。そういうのはすげえよなあ』
僕だってもっと稼ぎたい。
このままじゃ体がもたないから別の方法を模索して、『
自分にできることをどうにか頑張り続けて、ようやく月々12万円程度は稼げるようになった。
それでもまだまだ足りない。
もっともっと頑張って、仮想金貨を稼ぐには————
僕は
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