9話 妹無双


「めるるるうううう! 頼むからもう何も言わないでくれええええ!」

「私に黙って、ゲームしてた罰……!」


「お願いしますうううううううううううううう!」

「わかった。じゃあ私とも遊ぶ。あと、ちょっとした・・・・・・条件・・も呑む、いい?」


「かしこまりいいいいいいい!」


 思ったよりも呆気なく兄妹戦争は終結した。

 現実リアルでの壁越し会話を経て、一息ついた僕は意識をゲームに戻す。


「では、キラとサスケよ! はこのへんでっ!」

「失礼します」


 僕がこの場で離脱を図ろうとするも、さりげなく僕の腕を取って一緒に退散する芽瑠める

 ここで何か言い合っては、また余計なことを芽瑠が口走るかもしれないから黙ってその場を後にした。

 キラさんとサスケさんは、最後まで呆気にとられた顔で僕らを見送ってくれた。



芽瑠めるよ……いくら何でもいきなりすぎる……」

「お兄ちゃん、聞いても、秘密にした」


「うっ」

「罰として一緒に遊ぶ。フレンド登録、おけ?」


 僕はフレンドリストからキラさんを解除して、そして新しくメルとフレンドになった。

 まあメルは家族だし、僕が男でも何ら被害は出ないからフレンドになるのはいい。ただ、どうして芽瑠は僕がパンドラをプレイしてると知っていたのかとか、キャラがリアルの見た目とそっくりなのかとか、聞きたいことは山ほどある。


「キャラが私と似てる、驚いた?」

「まあ……それもある」


「実は私、『よめるめる』は、【転生オンライン:パンドラ】の公式アンバサダーに選ばれた……!」

「……なんと」


 とんでもないことを淡々と言ってのけた妹に戦慄してしまう。

 実はうちの妹は現役中学生でありながら、『よめるめる』というペンネームで漫画家&インフルエンサーをしている。


『誰でも読める・・・! 楽しめる・・!』をモットーに、SNS上で『よみかわ』という黄泉よみの国から来たハムスターたちが冒険するマンガを描いており、これが大人気を博している。


 アニメ化はもちろん映画化もして、グッズまで爆売れらしい。

 この間なんか100均でも『よみかわ』グッズを見かけてびっくりした。


 しかも漫画家ご本人も美少女ときたものだから、メディアは一斉に取り上げ、今ではティーン向けのファッションモデルや商品宣伝動画などをアップして活躍しまくっている。


「マネージャーさん、私が【転生オンライン:パンドラ】を宣伝すれば大バズり間違いなし、言った」


「それで……パンドラ運営もキャラをわざわざ芽瑠める用に作ったと?」


「正式な案件依頼、マネージャーさん、交渉頑張ってくれた。月にゲーム内SSを4枚、プレイ動画を2本アップ。2000万円入る」


「ぶほぉっ、月収2000万!? 芽瑠はやはり偉大よな……」


「お兄ちゃんも、『男姫オトヒメ』、がんばってる」


「……その話はやめよ」


 妹は僕の懇願にコクリと頷き、すぐに話題を転換してくれた。


「私とのコラボ記念、超レア身分【絵描き姫ピクトアイドル】を実装」


「……つまり、街中で芽瑠があふれかえると?」


「ちがう。でも、私みたいな画家少女に……何人かは、転生できるかも?」


 パンドラは身分によってキャラクリがある程度固定される。

 例えば『身分/戦士』だった場合、男性だったら身長170cm以下にはできないとか、筋肉量を最低値にしてもそこそこ筋肉質な風貌になってしまう。

絵描き姫ピクトアイドル】も同様に、それなりに美少女画家っぽいキャラクリになるのだろう。


 僕の【身分/幼女魔王】も身長135cm以上にできなかったしな。


「男性プレイヤーでも【絵描き姫ピクトアイドル】になれるとな?」

「すごく中性的、可愛らしい風貌の少年になる。身分表記は、【絵描き王子ピクトプリンス】だった、気がする」


「これは……自殺ラッシュが起きるやもな……」

「私が物騒な現象、引き起こすみたいな言いかた」


「レア身分であろう? 引き当てるにはそれなりに転生を繰り返さないと厳しいのではないか?」

「『転生ガチャ』、実装される。そのラインナップに入ってる」


「転生ガチャ!?」

「あ、これはまだ秘密……」


「おい」

「2人だけの秘密」


 妹の発言から察するに、おそらく完全ランダムでの転生ではなくて、課金により特定の身分がそろったラインナップからランダムで転生できるサービスなのかもしれない。


「【絵描き姫ピクトアイドル】の転生確率は?」

「ピックアップ時は0.5%、シーズンが終わると0.01%?」


「鬼畜であるな!? 可愛いは、希少である!」

「超レア身分」


 無表情のままフンスっと自慢げに語る妹。


「他の身分のラインナップを所望する!」

「お兄ちゃん、待つ……!」


 我が妹は秘密と言っておきながらも、ゲーム内連動型のスマホを確認してそのガチャ排出率表を見せてくれた。



————————————————————

第一回コラボガチャ【姫君たちの護衛】 2000円

さあ、きみも姫君を見守ろう! アイドルに転生しよう!


30%……身分【読者リーディン】 スキル:本魔法ブックス

30%……身分【支援者リスナー】 スキル:金貨の加護スパチャ


15%……身分【黄泉のハムスター】 スキル:ハム騎士

15%……身分【月からの使者】 スキル:うさ騎士


9%……身分【黄泉の渡り手/月のうたい手】 スキル:???


0.5%……身分【絵描き姫ピクトアイドル】 スキル:???

0.5%……身分【美月の姫ラビットアイドル】 スキル:???

————————————————————



「【美月の姫ラビットアイドル】とは何だ?」


「『月乃うさぎ』ってVTuber。私とフォロワー数がほぼ同じ。300万人ぐらい」


「ほう……うまい商売よな……」


 これは『よめるめる』のファンなのに【身分/月の住人】が当たった場合、多少なりとも残念な気持ちになるだろう。

 しかし、せっかくだからと『月乃うさぎ』の配信をちょこっと見てみるかとなる。

 また逆もしかりで『ハム騎士ってなんやねん』からの『よみかわ』を読んでみるプレイヤーもいるだろう。


 もちろん『よめるめる』も『月乃うさぎ』もフォロワー300万人超えなので、2人がパンドラをプレイしているだけで多くのフォロワーたちがパンドラというゲームに興味を持ち、実際に始めてみたり課金するようになるのだろう。


「お兄ちゃん」

「ふむ」


「ちょっとした条件の話」

「黙る代わりにと、さきにのたまったやつよな」


「私と一緒にSS撮る。配信にも映る。確定」

「えええ……!?」


「お兄ちゃん、美少女キャラでプレイできてる。ちょうどいい」

「ええええ……」


「また一緒に、きゃっきゃっして遊ぶ」

「ぐっ」


 とても魅力的な提案だった。


「記念に一枚、パシャ活」

「わっ、ちょっ、待つのだ!?」


 急に腕に抱き着いてくる妹は、ほんのわずかにはにかんでいた。


「お兄ちゃん、ちっちゃい。可愛い」

「こ、こらっ……やめっ」


 そして現実では圧倒的に僕の方が大きいのに、ゲーム内では妹の方が10cmぐらい高い。

 その身長差をかされ、なぜか頭を撫でられるという恥辱を味わった。


「いいこいいこ」

「くっ……可愛いは、我慢っ……!」

 

 無表情がデフォな妹にしては珍しく————

 とろけそうな笑みを浮かべる妹と、顔を真っ赤に染める僕のスクショが完成してしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る