第一章 7 図書館
二人は朝ごはんを食べ終え、アデラードは図書館へ行く支度をする。いつものバックパックに、『埃』対策用のマスク。服装はいつもの外套姿。東洋の男はというと、どこから持ってきた服か知らないが、何故か袴姿であった。
「これが正装なんだ。」
と男は言う。そんなことないだろとアデラードは思いつつ、玄関の扉を開けて外へ出る。マンハッタンは今日も雪景色のように『埃』が降り積もっていた。何故か男はマスクをしていない。
「え?!!?ねぇ。マスクしないと死んじゃうよ。」
とアデラードは言うと男は
「私は大丈夫。そもそもこの世界の人間ではないから。」
と答える。
男は颯爽と歩き出した。いくら歩いても、東洋の男の装束には『埃』は積もらない。な確かに、『埃』は彼を避けるかのように降っていた。アデラードは思った。確かにこの男はこの世界の人間ではないのかもしれない。では一体どこからきた人間なのだろう。
「まぁいいや。そんなことは。ただ、奴らにバレたら私もマズイ。」
と男は私に耳打ちした。アデラードは『へ?』と答えようとしたところ彼はもう前を歩いていることに気がつき、それを言うのをやめた。
ニューヨーク公立図書館は本館と分館合わせて九十三の施設がある。一体この東洋の男はどこの館に行くのだろうとアデラードは思っていたが、彼について行くに従い、グランドセントラル駅の近くを通過し、ブライアントパークまで来た。どうやら本館であるらしい。
本館の正面入り口にある遺体のライオン像に向かって、東洋の男は語りかけた。
「あ、私です。入って良い?」
と彼は言うとライオン像は口を開き
「良いぞ。」
と言うと、玄関が開いた。アデラードは口を開いたライオン像に驚いた。彼女は教育を受けたことがほとんどなかったが、不思議と文字は読めた。彼女は偶に図書館に行こうとはしていたが、本館のその扉は開くことはなく分館で済ませていた。もちろん像が存在は知っているもののそれが口を開くとは予想できなかった。
玄関に入ると、一階はミュージアムショップになっていた。アデラードは
「え?ここって図書館じゃないの?」
と言うと
「三階に閲覧室があるんだよ。」
と東洋の男は言った。アデラードは
「まさか、本を読みにきたんじゃないでしょうね?」
と呆れ顔で男に言うと、
「あのね、アデラード。読書以外に何の目的で図書館に来ると言うの?」
と男は言い、階段を上がる。もちろんアデラードもそれについて行った。
三階に着いた。ローズルームと書かれた部屋に入っていく。
「ここは読書室だよ。」
と東洋の男は言った。
アデラードは首を傾げる。
「なんでこんなところに?」
確かに。奇妙だ。こんなところに世界の、ましてやアデラード自身の秘密が隠されているようには見えない。
東洋の男はその華美な椅子に座り、指をパチンと鳴らした。ローズルームはその瞬間まるで空間が湾曲したかのように揺らめき、中央に泉のような構造物が浮かび上がった。
「この泉、これを通ろう。アデラード。」
と男は言う。アデラードはなぜだかその泉をみると悪寒が走った。
「なんだか、なんだか、私を拒否してるような。。入ったらとても怖い気がする。」
とアデラードは不安そうに言う。
東洋の男は、
「大丈夫だよ、アデラード。私がいる。それに、、何かを知るには何かを犠牲にしなくちゃいけない。」
「何を犠牲にするの?」
とアデラードが尋ねると、男は抽象的な返事をした。
「今回は、恐怖心だ。」
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