第一章 4 奇妙な夕食


 アデレードはいつものアパートの一室のベッドに横たわっていた。夕方。昼寝をしてしまっていたんだなと思ったが、

「お目覚めかい?」

 アデレードは初めて他人を見た。そうあの東洋の男である。

「カルマはお留守番さ。私が来た、ということはどういうことか分かるかな?」

 アデレードはこの男の言うことが全く分からなかった。いや、それは言い過ぎかもしれない。

「えっと、東洋のお兄さんは、私の夢にで出てきた人物で、だからえっと、、、」

 アデラードは夢に出てきた人間が目の前にいると言う事実にも戸惑いを隠せなかった。そりゃそうだ。東洋の男は口を開く。

「そうだね。驚くのも無理ないだろう。確かに、私は君の夢に出てきた。うんそれは事実だ。君にとってはね。でも、私からしたらこの世界の方が夢みたいなものなんだよ。」

 アデラードは困惑した。

「アデラード。まぁ、長い話になるから、今晩は私が料理を作るからそこで待ってなさい。」

 と男は言って階段を降りて二階のキッチンへ行った。アデラードはしばらく呆然とした後、先に風呂でも入るかと思ってお風呂へ入った。

 アデラードがお風呂から上がり、キッチンへ行くと、東洋の男は見慣れぬ料理を作っていた。

「アデラードはご飯の前に先にお風呂へ入るタイプなのかな?」

 と東洋の男は言う。アデラードは少し顔を赤らめて、

「まぁ。うん。お兄さんは?」

「日によるかな。自分がご飯を作るときはお風呂は後、他の人が作るときはお風呂が先。」

「他の人ってカルマ?」

 とアデラードは純粋無垢な顔で彼に言う。東洋の男は

「う〜ん。カルマとはアデラードが考えるような仲ではないんですよ。残念ながら。」

 と彼は言うのでアデラードは

「ねぇ、何で残念なの?」

 と言うと彼は照れた顔をして、

「深追いはよして。」

 と言った。

 彼は気を取り直すように、

「さぁ、できたよ。こんな話はよしてご飯を食べよう。」

 と言うとアデラードは

「なんていう料理なの?」

 と言い首を傾げる。

「すき焼きだよ。」

「すき焼きって何?」

「牛肉とか野菜を入れて煮た料理さ。私の国では一般的だが、流石にこの世界にはないようだね。」

 男は顔に笑みを浮かべ、すき焼きを机に置き皿に盛り付け、

「さぁ食べよう。」

 と言い二人は晩御飯を食べ始めた。

「あの、これどうやって使って食べるの?」

 とアデラードは質問する。

「あ、箸の使い方知らないの?」

「箸って?」

「う〜ん。流石にこれから覚えるのはきついから、今日はスプーンとかカトラリーを使って食べて良いよ。」

 と彼はにこやかに言って、どこからかカトラリーを魔法のように出現させた。

 少女はこれまで人と一緒にご飯を食べてこなかったから、東洋の男はきっと礼儀作法であろうか、二人はしばらく静かに食べていると、アデラードは口を開いた。

「えっと、この家にこんな食材なかったよ。」

 とアデレードは言う。

「あ〜米ね。ないだろうから持ってきちゃったよ。まぁ味くらいは楽しみたいからね。」

「え、カトラリーもそうだけど、何処から取り出してるの?」

 男は困ったように言う。

「う〜ん。この世界の深淵を理解しているからかな?」

 アデラードにはまだこの言葉の意味は分からなかった。でも一つだけ分かっておきたいことがあった。

「ところで、東洋のお兄さんの名前はなんて言うの?」

 とアデレードは言うと、男はまた困った顔をして

「あれだけ名を名乗らないのは礼儀知らずだとか偉そう言ってしまったけど、悪いけどまだ私の名前は名乗れない。」

「でさ、何で、お兄さんはここにきたの?」

「そうだね。この世界、そして君が君自身を理解するために、来たんだよ。」

 アデラードは言う。

「へ?」

 男はご飯を食べながら説明し始めた。

「ともかくさ、アデラード。私の前で幼いふりをするのはやめてくれ。君は小さいように見えて実は大人びている。そうだろう?」

 アデラードはハッとしてしまい箸が止まった。この男には見透かされている。

「そして、アデラード。君はどこか自分の存在に対し疑問を持っている。パパやママの存在でさえ、本当にあったのかさえも。」

 と男が言うとアデラードは恐る恐る口を開く。

「ええ。だって、パパとママのいた証拠は私の記憶だけ。もともと私の記憶に何らかの形で刷り込まれているとするのならパパとママは本当の意味ではいなかったの。とすると私の存在はどこから生まれてきたの?と言うか私以外マンハッタンには人間がいないなんて、おかしいと思わない?でもなぜか生活環境。インフラは整備されている。なんか箱庭に入れられて飼われている気分だわ。」

「君は懐疑論者のようにものを言うね。」

 と男は笑う。アデレードは頬を膨らませて言う。

「だって、私、よく変な夢を見るの。」

「どんな、、夢かな?」

 男は不思議そうな思いをしたような顔で言った。アデレードは自身の夢について語り始めた。

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