第一章 2 銀行強盗

 アデレードは『埃』に包まれたウォール街を抜けていく。彼女はその街の中で一番大きい銀行跡地に入って行った。中は至って普通の銀行。イギリス紳士風の街灯とマスクを身に纏った少女がいる!とアデレードは一瞬思ったが、それは銀行にあった洒落た鏡に映った自分だった。この街にはもう自分しかいない。この事実はまた彼女の心に突き刺さった。

「ねぇ。あなたの好きなものは何?」

 彼女は鏡に語りかける。鏡の彼女は何も反応しない。そりゃそうだと思って彼女は口座のあった場所に行った。一昔前だったらただの銀行強盗なのにね。と思い彼女は笑った。ただ笑い声が銀行に響く。『埃』が舞った。一人で寂しい。少女は口座の操作パネルを弄りお金を引き出した。通貨は仮想通貨で、少女の持っていたカードに刷り込まれる。もう誰もいないマンハッタンの銀行口座は、少女でも簡単にハッキング出来ることからも分かる通り、本来の意味を為していない。アデレードは外套姿のまま銀行を出て、アパートに戻った。アパートは二重ドア構造になっており、そのドアの間で埃を取り中に入る。彼女は外套を脱ぎ捨てた。本来紳士の着る外套を15歳くらいの女の子が着ている姿はどこかこの世界を風刺しているようにも感じる。彼女はパソコンを開き、さっきのカードから仮想通貨をパソコンに移す。そして、オンラインで食品を選び注文する。やはり食品の調達は大事だ。食品はドローンが東の国から運んでくれるだろうか?アデラードでもはっきり分かっていない。彼女は昼前であったのに疲れて眠りについてしまった。

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