静謐、ソレハ、Metempsychosis.
公乃月
第一章 1 目覚め、
アデレードという名の少女は、今日も眠りから目覚めた。かつてそこはニューヨーク・マンハッタンと呼ばれたその先進的な都市だ。今はもうこの国は、滅びの一途を辿っており、マンハッタンは荒廃し始めていた。アデレードはそんな中、両親が遺してくれたアパートの一室に住んでいた。一室と言っても、一階に玄関があり、三階建の部屋で庭付き。庭には荒廃したピアノがまるでこの現実世界の写し鏡のように置かれていた。誰が最初にそのピアノを置いたのか分からないがきっと、ピアノを自然に還す実験でもしたのだろう。アデレードはいつもそのピアノから音色がしてくれればい良いのにな、なんて思っていた。アパートはこの荒廃しゆく世界の中の楽園だった。なぜなら情緒ある庭やおしゃれな部屋のお陰で、全くと言って良いほど外の世界と無関係に感じれる空間だったからだ。そして、地下室にはパパとママが遺してくれた遺産があるらしく、本当に『開かなくては』ならない時に開くらしい。
アデレードは今日も朝ごはん、と言っても、バナナやキウイフルーツなど、フルーツだけでできたものだが、、、ペティナイフで切り皿に盛り付けた。そして、一人寂しく食べる。アデレードは旧世界で言うところの学校へ通う年齢だったが、そんなものは消えてなくなくなった。この世界にそんな子供を教育する余裕などなくなってしまったのだ。いや、そもそも教育する大人、教育される子供がいないのだ。生きる希望などというありふれた言葉はこの世界には存在しなかった。
今日も、アデレードは旧世界の産物を探しに街へ出る。街は特殊なマスクをして出ていかないと死んでしまう。街に舞っている謎の汚染物質、人々はそれを埃呼ぶ、吸うと呼吸ができなくなる。アパートの敷地だけはその物質が入ってこないようガードされていた。汚染物質を吸ってしまった人間は細胞レベルまで崩壊してしまうらしい。
旧世界の産物は、まぁ色々あるが、今日のアデレードの目標はウォール街を散策して、旧世界の硬貨を集めることだ。そしてそれで得たお金で遠く離れた州まで行って食べ物を買う。電気と水は何故かアパートにも供給されているので大丈夫だ。このマンハッタンに、アデレード以外の人間がいるのか、それはアデレードですらも分からなかった。両親が死んだあと、いや生きている前からも他の人間を見たことがない。アデレードに遺されているのはこの街だけ。
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