婚礼賛歌

鍵崎佐吉

婚礼賛歌

壁越しに咽び泣く姉の震える背 顔の見えない花泥棒


一度だけあなたにあげたプレゼントどこにあるかは誰も知らない


リビングでスーツ姿の父を見ていつぶりだろうきっと葬式


脇で見る大根役者と木偶の坊 娘さんを僕に下さい


おめでとう 唱えてみればあら不思議茶色くなった林檎の酸味


がらんどう主のいない部屋の中取り残された夕陽の欠片


義兄さんと呼ぶことはないその顔に似た子がいつか生まれるだろう


晴れの日を祝う燕を追う烏 何を言っても白くはなれぬ


似ていると言われた覚えはないけれど目玉焼きにはいつも塩だけ


帰り道並んで歩く隙間には血の染みた糸が絡まっている


晴れ姿選ぶ母の目この人もかつて確かに少女であった


翳りゆく山の向こうに頭垂れ香る煙に言葉を落とす


潮騒の桃源郷に列をなす浮かれた蟻と彩られた蝶


仰ぎ見るステンドグラスの残光に翼焼かれた哀れな天使


濁りなき白を纏いし今だけはあなたのために地球は回る


いつの日か病んで誓って墓になる夜の向こうで牝牛が笑う


降り注ぐスポットライト通り過ぎ生まれて初めて食べるフォアグラ


過ぎ去りし日々を想えばいつまでもこの心臓に泥が流れる


朗らかに命を照らす銀の枷 生まれた時から大嫌いだよ


死んだ花を抱えて見送る夏の雲ひねくれ者の独り言

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婚礼賛歌 鍵崎佐吉 @gizagiza

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