3.未来の花嫁?

第71話

 アレク王子があたしの隣に来て、あの美しい顔で笑って言った。

「しずく姫。魔女修業を続けてくれて、嬉しいよ」

 それから手をとり、手にキスをしようとして――やめた。


 コタくんは怖い顔をしいて、アレク王子はコタくんを見てくすくすと笑った。

「キスはしないよ。手にもね」

「……当たり前だ!」

 コタくんはぶすっとしながら、言った。

「どうして、当たり前なの?」

「だって、しずくは、おれの――」

 とコタくんが何か言いかけたところで、くろがあたしとコタくんの間に割り込んできて、「しずくはアレク王子の未来の花嫁だよねっ」としっぽを振りながら、言った。


「くろっ! お前っ」

「それでね、ボクはね、ずっとしずくの使い魔でね、それでアレク王子がしずくの夫になったらね、ボクはしずくの第二夫になるんだ! ねー、しずく!」

 くろに抱きつかれて、あたしは後ろに倒れそうになり「わっ」と声が出た。

 そして、「ねー、しずく!」と言われても、第二夫? 何それ。

 あたしは思わず笑いが込み上げてきた。

「しずく、何笑ってんだよ! くろは猫じゃないぞ。もう、離れろって!」

 コタくんは必死になってくろを引き離した。

「あー、もう! ボクはしずくが好きなのにぃ!」

「違う! とにかくなんか、違うー!」

 コタくんとくろのやりとりを見て、みんな、笑った。


 アレク王子と目が合った。

「アレク王子、あたし……」

「分かっているよ、しずく」

 アレク王子がにっこりとし、あたしはほっとした。

「ねえ、しずく姫」

「はい、アレク王子」

「しずく姫がね、魔女修業を続けると言ってくれて、私がどれだけ嬉しいか、分かるかい?」

「……アレク王子」

「ハルメアは、みんなの思いの強さで成り立っている王国だ。小さいころは誰でも持っている不思議を信じる気持ちで。――だけどね、大人になると、忘れてしまうんだ」

 アレク王子はさみしそうな顔をした。


「あたし、忘れません」

「嬉しいよ、しずく姫。その気持ちだけでも。だからね、いつか大人になって、しずくがそのとき特別に思う誰かがいなかったら、ルネの言うように私の花嫁になるといいよ」

 アレク王子がそう言って、あたしが何か言おうとする前に、コタくんが言った。

「だめだ! しずくはおれの!」

「おれの?」

 アレク王子に聞き返され、コタくんは真っ赤になりながら、「だから、しずくはおれの――おれの」

「しずくはボクの大好きな人!」

 コタくんが何か言いかけたとき、またもやくろが割り込んできて、明るくそう言った。

 コタくんは苦虫を潰したような顔をして「くろっ!」と言って、くろの頭を軽くはたいた。


「あー、何すんだよお」

「お前がいつも邪魔をするからだっ」

「ふふん! なかなか言えないからだよっ」

「ちーがーう! いつも邪魔されてんの!」

「へへん! じゃあね、虎太朗は第三夫にしてあげるよ!」

 第三夫⁉

 あたしは思わず笑ってしまった。

「だめだっ」

「へへーん!」

 コタくんは、最近には珍しく、くろとケンカを始めた。

 コタくんとくろは、こたつから離れて部屋中を駆け巡りながらケンカをしていた。

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