第72話

「しずく姫。ハルメアの成り立ちを知っているかい?」

「アレク王子――知りません。ハルメアはどうやって出来たんですか?」

「ハルメアは、必要とされたから生まれたんだよ」

「必要と?」

「しずく姫。しずく姫は必要としていたから、ハルメアに来ることが出来た。そういうふうに、ハルメアを必要としている人間が他にもいるんだよ」

「……分かります」


 ハルメア緑と花と魔法の国。

 平和で穏やかな国。

 まるで安全基地のような。


「ハルメアを必要だと思う人々がたくさんいて、そうしてハルメアが生まれたんだ。――もうずっと前に」

 あたしにもハルメアは必要だった。とても。

「ハルメアは、だから平和で穏やかな、優しい国なんだよ」

「アレク王子……」

「しずく姫、ハルメアを忘れないで――大人になっても」

 アレク王子は静かに微笑んだ。

 あたしは「はい」と言った。

 アレク王子はあたしの頬をそっと撫でた。


 そのとき、「あーーーーーー‼」という声が聞こえて、コタくんが急いでやってきて、あたしの手をとって引っ張った。

「だめだめ!」

「コタくん?」

「しずくも、そんなふうに他の誰かに触らせないで。お願いだから」

 アレク王子はくすくす笑っていた。

 そこにくろが飛び跳ねるようにやってきて、「しずくー‼」とあたしに抱きついてきた。

「だから、くろもだめっ」

「だって、ボクはしずくの第二夫だから!」


「もう、そのネタもやめろっ。しずくと結婚するのは、おれだっ。第二も第三もない! おれだけだっ」


「……コタくん……」

 あたしは嬉しくてびっくりして、顔が熱くなった。

 コタくんは真っ赤な顔で、「だからしずく。もう簡単に、おれ以外の人に触られたりしないで?」

「……はい」

「本当に、お願い。おれ、身がもたないよ」

「……はい、コタくん」

「しずく。しずくはおれのこと、好き?」

「……好き」

「いつか、おれと結婚して?」

「――はい」


 あたしが心臓が口から出そうな気持ちでいると、アレク王子が笑いながら「ようやく言ったね」と言い、ルチルも笑顔で頷いていた。

「ああ、もう! ボク、せいいっぱい、邪魔していたんだけどなあ」

 くろは笑いながら言って、しっぽをふりふりさせていた。

「だって、ボクだってしずくのこと、好きだもんっ」

「お前の好きと、おれの好きは違うっ」

 コタくんが言うと、「違わな~いっ」と言って、くろはあっかんべーをした。

 コタくんは「おまっ」って言いながら、またくろにつかみかかって行った。


 でも、なんだかとても楽しそうだった。

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