第70話

 ルチルの緑の瞳が、あたしの目をじっと見た。

 あたしは目をそらさずに、ルチルの緑の瞳を見た。


 アレク王子があたしのことをじっと見ているのが分かった。

 コタくんも、あたしを見ている。

 さっきまでお節をせっせと食べていたくろまで、あたしを見ている。


 あたしは六年生になってから、乗り越えてきたことを一つ一つ思い出した。

 りこちゃんのこと。

 泳ぐこと。

 ダンスのこと。

 ……大人からしたら、たぶん、ささいなことだ。

 たいしたことないじゃないって言わちゃうようなこと。

 でもあたし、頑張ったと思う。

 ちゃんと、自分で頑張ったから、ここみちゃんという友だちも出来てひびきくんとも仲良くなれた。


 頑張ったのは、あたし。

 だけど、そのときあたしは一人じゃなかった。

 いつだって、支えられていた。

 コタくんも。

 そして、アレク王子やくろ、魔女先生――ううん、ハルメアそのものが。

 ほんの少し背中を押すもの。

 ささいなきっかけ。

 小さな支え。

 それがあるからこそ、生きていけるんじゃないだろうか。

 悩んだり苦しんだりしても。

 正解がどれか分からなくても。

 苦しい選択をしなくてはいけなくなったとしても。

 それがきっと生きる、ということ。生きていく、ということ。


 おばあちゃんがいなくなって、家の中が大変になった。

 あたしが家事をすることで、お父さんもお母さんもほっとしていた。遠足のお弁当も運動会のお弁当も社会科見学のお弁当も、ちゃんと自分で作ったよ。運動会は、見てもらえなかった。仕事が忙しくて、と言われると、何も言えなかった。

 あたし、うちのことも頑張ったと思う。

 頑張れたのは、コタくんたちがいたからでもあるし、魔女修業しているんだ、という気持ちがあったらでもある。

 魔女修業しているんだ、という気持ちそのものが、あたしを支えていたんだと思う。


「魔女先生」

 あたしはルチルをしっかりと見て言った。

「あたし、魔女修業、続けます!」

 ルチルは緑の目を大きく見開いた。それから、嬉しそうに笑った。

「そうか。――では、今年も頑張ろう!」

「はい!」


 アレク王子が拍手をした。

 くろも拍手をして、コタくんも拍手をした。

 ルチルがあたしをぎゅっと抱き締めた。

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