第66話
見ると、舞踏会のときみたいにダンスが始まっていた。
ここみちゃんはひびきくんと踊っていた。
コタくんはなぜかくろと踊っていて、ルチルはそのようすを見て笑っていた。
「アレク王子、あたし」
おばあちゃんとまだ話したかったあたしは、アレク王子に手をとられながら、おばあちゃんを見た。でもおばあちゃんは言った。
「踊っておいで。ここで見ているから」
「……ん!」
あたしはアレク王子と踊ることにした。
「しずく姫、いろいろ乗り越えて偉かったね」
「うん。――みんながいたから」
「そうだね。……しずく姫は本当に成長したね」
アレク王子はなぜか少しさみしそうに笑った。
「アレク王子。あたしね、大人になっても忘れないよ。ハルメアのこと。アレク王子のこともくろのことも魔女先生のことも」
「うん、ありがとう、嬉しいよ」
「それでね、前に、大人になったら結婚してくれる? って言ったでしょう」
「そうだね、言ったよ」
「あれは」
「あれは、しずくが大人になったとき、もしもしずくに好きな人がいなかったら、くらいでいいんだよ」
「そうなの?」
「――しずくは、虎太朗くんが好きなんだね」
「……うん」
「気持ちは伝えたの?」
「……まだ」
「早く伝えられるといいね」
アレク王子は美しく微笑んで、そこで曲が終わった。
するとそばにはコタくんがいて、アレク王子はコタくんにあたしの手を渡した。
「コタくん」
「しずく」
あたしはコタくんとダンスを踊った。
なんだかちょっと恥ずかしかった。
「コタくん、じょうずだね」
「社会科見学のレポートは上手に書けないけどね」
「……まだ根に持ってるの?」
あたしはくすくす笑った。
「しずく」
「ん?」
「しずく、おれ、しずくのことが」
コタくんが真剣な顔であたしの顔を見たとき、「はい、そこまでー!」という声がして、くろがあたしの手をつかんでコタくんから引き離した。
「ちょっ! お前っ!」
コタくんは真っ赤になって怒って、あたしとくろを追いかけてきた。
「しずくは渡さないよー!」
「くろっ!」
会場中に笑い声が響き渡った。
楽しくて楽しくて、みんなたくさん笑った。
クリスマスプレゼントはみんな、目に見えないものをもらったと思う。
だいじなことは目に見えないんだ。
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