第64話
あたしは昨日焼いたクッキーと牛乳と、それからフルーツティを用意した。
「ありがと、しずく! しずくのクッキー、好きだ」
「おいしいよ、ありがとう」
コタくんとひびきくんがそう言ってくれて「ありがとう」って応えた。
「しずくちゃん、今度クッキーの作り方、教えて」
「うん、いいよ、ここみちゃん」
「食べるのは、ボクの役目だねっ」
くろはそう言って、クッキーをばくばく食べた。
「宿題、終わってほっとしたよ」
ひびきくんがそう言って「ほんとだよ……」とコタくんが言う。
「コタくん、よく宿題出さずに怒られてたもんね」
「おおう。だって、無理だろ、あんなん」
「でも、出来たじゃない!」
「ああ、みんなのおかげでな」
またみんなで笑う。
みんなで笑い合うのって、いいな。
「ねえねえ、クリスマス、どうするの?」
くろが言った。
「わたしは家でケーキ食べるかなあ」
ここみちゃんが言う。ここみちゃんちは家族行事が多い。
「僕も、家でケーキかな。ケンタッキー買うかも?」
ひびきくんが言う。
「おれは……しずくはどう?」
コタくんは何か言いかけてやめて、あたしに質問を投げかけた。
「あたしは、いつも通りかな?」
「いつも通り?」
「うん。お父さんもお母さんも仕事だし。今年はサンタさん、来ないと思うし。……いつも、おばあちゃんがクリスマスプレゼントを用意していてくれたから。サンタさんからだよって」
「しずく……」「しずくちゃん……」
みんなが心配そうにあたしを見たので、「だいじょうぶだよ、心配しないで!」とあたしは言った。
もうすぐおばあちゃんが死んで一年になるなあ、と思った。
おばあちゃんは年を越した一月に病気で亡くなった。
今年のクリスマスは、おばあちゃんが死んでから、初めてのクリスマスなんだ。
おばあちゃんはクリスマスの日はいつも、ケーキを焼いてくれて、チキン料理を作ってくれた。
……おばあちゃんにケーキの作り方、教えてもらっていればよかったな。チキン料理の作り方も。
おばあちゃんのことを思い出していたら、「心配しないで」とは言ったものの、なんだか悲しい気持ちになってしまった。
今年のクリスマスはきっとさみしい。
「しずく! クリスマスはハルメアでパーティしようよ!」
くろが胸を張って言った。
「ハルメアで?」
「うん、そう! アレク王子も大魔女ルチルだって、きっとしずくとクリスマスしたいって思ってるよ。ぼくだって、もちろんしずくとクリスマス、したい! それに」
「それに?」
「それにねえ、クリスマスだから、特別にしずくのおばあちゃんに会えるんじゃないかな?」
「そうなの? 長い時間、会えるかな?」
「うん、クリスマスプレゼントみたいな感じで、長い時間でも会えるようにしてくれるんじゃないかなあ。アレク王子もルチルも強い魔力持っているし!」
「あたし、おばあちゃんに会いたい! いっぱい話、したい!」
「じゃ、決定! クリスマスはハルメアで!」
くろがそう高らかに宣言すると、ここみちゃんとひびきくんが「いっしょに行きたい!」と言った。
それからコタくんは「おれも絶対に行くからな!」と言った。
くろは、ここみちゃんとひびきくんを見て、「うん、いっしょに行こうね!」と言い、コタくんには「仕方がないから、連れてってってあげるよ」と言った。
「クリスマス、楽しみだね!」
くろが言って、みんな「うん!」って頷いた。
あたしはおばあちゃんにまた会えるんだ、と思うと嬉しさで胸がいっぱいになった。
あたしは、おばあちゃんにまだ教えて欲しいことがたくさんあるんだなあって思った。
クリスマスがとても楽しみになった。
おばあちゃんと会えることも嬉しかったし、何より大好きなみんなとハルメアでクリスマスを過ごせることが、とても嬉しかった。
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