十二月の章 社会科見学にも、もふもふと

1.グループ分けも苦しくないよ

第59話

 社会科見学!


 あたしはわくわくしながら、先生の話を聞いていた。

 あたしたちが住んでいるところは、古都の近くだ。神社仏閣がたくさんあって、森の中には遺跡があったりする。社会科見学では、グループで古都を回る。

 これまではグループ分けのたびに緊張していたけれど、今回は期待の方が勝っていた。


 先生が「じゃあ、五人くらいのグループに分かれてね」と言ったとき、ここみちゃんとコタくんとひびきくんがすぐにあたしの席の近くに来た。

「社会科見学、楽しみだね!」

 ここみちゃんが言う。

「うん、楽しみ!」あたしはが言うと、ひびきくんが「グループのメンバー書く紙、もらってくるね」と、教卓に用紙を取りに行った。

 ひびきくんが取りに行ってくれた用紙に、それぞれ名前を書いた。

「虎太朗がリーダーで、僕がサブリーダーでいい?」

 ひびきくんが言って、みんな頷いた。

「まあ、誰でもいいんだけどね、一応ね!」とひびきくんは言って、リーダーとサブリーダーっていう言葉も書いて、先生に提出しに行った。


 戻って来たひびきくんは手に何か紙を持っていた。

「グループでさ、行程を決めるって、さっき先生言っていたじゃない?」

「うんうん」

「それ、この紙に書くんだって」

 あたしたちは、近くの椅子と机を借りて机をくっつけて話し合いをすることにした、

 ここみちゃんが自由帳を持って来て、「じゃあね、みんな行きたいところを言ってみて。わたしメモするね」と言った。

 コタくんもひびきくんも、いろんな意見を出した。

 あたしも行ってみたかったところを言う。

 ここみちゃんも自由に発言する。


 こういうの、いいなって思った。

 グループ分けのとき、「いっしょになってもいい?」なんてなくて、同じグループであるのが当然だねっていう雰囲気。強制じゃなくて懇願でもなくて、とても自然に。

 それから、あたしたち四人の中で、誰が上とか誰が下とか、全然なくて、みんな自分の気持ちを自由に発言できる。

 リーダーとかサブリーダーとかは、決めなさいって言われているから決めているだけ。

 そのリーダーがコタくんで、サブリーダーがひびきくんなのは、たぶん、あたしもここみちゃんも、ちょっと人見知りでみんなの前で何か言ったりやったりするのが苦手だって分かっているから、そうしてくれたのだと思う。あたしもここみちゃんも、このメンバーだと、ちゃんと自分らしくしゃべれるんだけど。

 でも、それでもいいよっていう雰囲気があるんだ。


「しずくは他にはどこに行きたい?」コタくんが言う。

「……あたしね、実は何か食べたりしたい!」

「わたしも食べたいなあ」とここみちゃん。

「何が食べたいの?」とひびきくん。

「えーと、たいやきとか」と言うと、コタくんが「げ。あんこ、好きじゃない」と言った。

「わたしはたいやき食べたいなあ」とここみちゃんが言い、「実はあんこは僕も苦手かも」とひびきくんが言う。

「じゃあね、この通りを歩いて、それぞれ好きなものを食べるっていうのはどうかな?」

 あたしが言うと「そうだね! それでこのままずっと歩いていくと、八幡宮だもんね」とここみちゃんが言った。

「それじゃさ、そのあと、山の方に行くといいんじゃない?」

「いいね、そうしよう!」

 ここみちゃんはみんなが言ったことを、きちんとメモしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る