第58話
「……なんだよ、ひびきのやつ、自分ばっかり」コタくんはぶつぶつ何かを言っていた。
「どうしたの?」
「なんでもない」
あたしはコタくんの顔を正面から、じっと見た。
小さいころからずっと、そばにいてくれた。
友だちを作ることが苦手だったあたし。
でも、コタくんがいっしょに遊んでくれた。
そのことで、どれくらい救われたんだろう、と改めて思った。
おばあちゃんが死んじゃったときもそばにいてくれたし、そのことであたしのうちが大変な状況にあることも、ちゃんと分かってくれていて。
分かってくれているって、なんて安心するんだろう。
どうしよう、なんか涙が出そうだ。
嬉しくて。
六年生になって同じクラスになって。
おれがいるだろって言ってくれて。
コタくんは男の子じゃないって思ったけど、でもその前にコタくんはあたしの一番のだいじな友だち。
遠足のときも気にかけてくれたし、泳ぐのを教えてくれた。
指輪。
あたしは服の下の指輪を触った。
指輪を見つけてくれたとき、探してくれたそのコタくんの気持ちが、どれだけ嬉しかったか。
コタくんのおかげで、運動会、楽しかった。
それから、今日も。
りこちゃんたちからたすけてくれた。散らばった景品を一人で拾っていたら、とてもみじめだったと思う。
コタくん。
本当に、いつも、あたしをたすけてくれていたね。
コタくんが幼なじみで、本当によかった。
「しずく?」
「コタくん。いつもありがとう。小さいころから、ずっと。あたし、コタくんがいてくれてよかった。いつもたすけてくれて、ありがとう」
コタくん、大好き。
それは言葉に出来なかった。
これ以上何か言うと泣いてしまいそうだったので、膝の上でいつの間にかうとうとしているくろの背中を撫でた。
中庭から校内へ戻るとき、「ここみちゃん、すぐに言えなくてごめんね。アレク王子に大人になったら結婚してくれるって言われたこと」とここみちゃんに謝った。
ここみちゃんは「いいんだよ!」と、言って笑った。
「でも、友だちなのに」
「友だちだからと言って、何もかも話さなくちゃいけないってこと、ないと思うの。話せるときに話してくれたら嬉しいな」
「ありがとう、ここみちゃん」
あたしはここみちゃんと友だちになれてよかった、と思った。
それから、前にここみちゃんに言われた、「しずくちゃんは誰が好きなの?」の答えをずっと考えていた。
そうして、小学校最後のフェスは終わった。
忘れられない一日になった。
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