4.いつも、たすけてくれたね

第57話

「しずく、どういうこと?」コタくんが怖い声で言う。

「あ、うん。……くろ、聞いていたの?」

「だってボクは猫耳だから! ボクね、しずくのこと大好きだし、しずくもボクのこと好きなんだって思うけど、アレク王子ならいいよって思ったの!」

 くろがにこにこしながらそう言うと、コタくんが「よくない!」と言った。そして、「なんだよ、あいつ、ロリコンだろ!」と怒ったように言った。


 するとここみちゃんが「えー、でも、アレク王子って十六歳でしょう? 四歳しか違わないよ」と言う。

「ということは、高校生だろ? 高校生が小学生にプロポーズって、変だろ!」とコタくん。

「んー、でも、ハルメアって、その辺の感覚がちょっと違うような気がするよ」

 とひびきくんが言うと、「お前は誰の味方なんだよ!」とコタくんに言われた。

「それにね、昔は日本でも、十二歳って、今でいう成人式をすることが出来る年齢でもあったし、結婚も出来たんだよ。だから、ハルメアもそういう感じじゃないかなあ」

 本を読むのが大好きなここみちゃんが言う。


「あのねあのね! アレク王子ね、でも、大人になるまでにゆっくり考えてって言ったんだよ。この大人っていうのは、今の歳のことじゃなくて、もっとずっと大人になったらってことだと思うんだ」

「そっか。それってさ、きっと『大人になってもハルメアのことを忘れないでくれると、嬉しい』に繋がるんじゃないかな」

 ここみちゃんがそういうと、ひびきくんが「どういうこと?」と言った。


「たぶんね、大人になるとハルメアのことを忘れちゃう子が多いんだろうなあって思うの。わたしたちはハルメアに行けるし、くろのこともアレク王子のことも大魔女ルチルのことも見える、でも、忘れちゃうと、ハルメアに行けなくなるし、アレク王子もルチルも、それからくろのことも見えなくなるのかもしれないなって」

「えー、やだよう!」

 口をとがらせて言ったくろの頭を撫でて、ここみちゃんは言った。

「だからね、アレク王子のプロポーズも、もしかして『忘れないでほしい』という強い願いからかもしれないなって思ったの」

「なるほど」とひびきくん。

「あ、でも、アレク王子がしずくちゃんのことを好きなのは、本当だと思うよ!」 

 ここみちゃんはにっこりと笑った。


 あたしは何を言っていいのか分からなくて、ここみちゃんが言ったことをもう一度考えてみていた。

 忘れるはずがないのにって思う。

 絶対に忘れないのにって。

 ……でも、アレク王子は忘れられる悲しさを知っているんだ、と思った。


「しずく」

 コタくんがあたしの手をぎゅっと握った。

「コタくん」

「しずく、おれ……」

 コタくんが何か言いかけたとき、ひびきくんが言った。


「ねえ、ここみちゃんってさ、アレク王子のことが好きなんじゃないの?」

「どうして?」

 ここみちゃんは不思議そうに言った。

「だって、ここみちゃん、この間の舞踏会のときとか……なんか、めちゃくちゃ嬉しそうにアレク王子と踊っていたし。それに、アレク王子と会うときはいつも真っ赤になっているし」

「やだなあ、ひびきくん! それは、アレク王子が憧れていた王子さまそのものだからだよ。たくさんお話を読んで、そうして出来上がったあたしの中のイメージの王子さまそっくりだったのよ、アレク王子!」

「そうなの?」

「そうよ」

「そっか……よかった」

「よかった?」

「うん、よかった!」


 ひびきくんとここみちゃんは、なんだかすっごくいい雰囲気になって、顔を見合わせて笑っていた。ここみちゃんの好きな人がひびきくんって知っているあたしは、すごくどきどきしながら、その光景を見守っていた。

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