第60話

「ここみちゃん、字、きれいだね!」とあたし。

「うん、見やすいよ」とひびきくん。

 コタくんは「おれ、こないだの国語のノート、見せて欲しい!」と言って、みんなを笑わせた。


「どうしたの? 寝てたの?」

「だって、すーっと眠りの波が押し寄せて来てさ」

「僕、分かるよ。土日、サッカーの練習が大変だった、次の日じゃない?」

「そうそう! なんか眠くなっちゃって!」

 ここみちゃんは笑いながら、「あとで国語のノート、貸すね! 先生によく怒られなかったね」と言った。

「なんか、おれ、怒られないんだよねえ」

 と言って、コタくんはみんなをまた笑わせた。


「わたし、国語は好きだから、ちゃんと書いてあるよ」とここみちゃん。

「おれは、算数は好きなんだけどなあ。国語はちょっと苦手。漢字が特に。あ! だから、社会も苦手。漢字が多いから!」

 コタくんの言葉に、みんな、また笑った。

「でさ、社会科見学は楽しみなんだけど、そのあとに書かなきゃいけない『社会科見学に行って』みたいなのが嫌なんだよー」

 コタくんは大げさにため息をついた。


「あ、じゃあさ、それもみんなでやろうよ!」と、あたしは言った。

「いいの?」とコタくんが言って、ここみちゃんとひびきくんは「やろうやろう!」と言った。

「場所はどこがいいな?」

「井戸工房でいいんじゃない?」

「いつもしずくちゃんちでだいじょうぶ?」

「うん!」

「じゃあ、またよろしくね!」

 そんな話をしていたら、先生が「あと十分くらいで行程表を提出してください!」と言った。


「まずい! あたしたち、おしゃべりしてばかりで、全然書いていないよね?」

「でも、しずくちゃん、わたし、メモしているし、だいたい決まっているよ」

「あとは、交通機関をどうするかだな」

「学校集合で、あとは自分たちで決めていいんだよね」

「あ、あたし、バスより電車がいい! バス、気持ち悪くなるかも」

「じゃあ、電車にしよう」

「バスは渋滞にはまると時間が読めないから、その意味でも電車の方がいいよね」


 そんなふうにいろいろ話し合った。

 そして、渡された資料を見て、時刻表から電車の時間を決めて、それから「おおよその移動時間」を参考にして、行程表を仕上げた。

「見学時間は多めがいいな」と言ってみたら、「しずくだからな」とコタくんが言って、見学時間多めの行程表になった。



 提出した後、先生が「ありえない行程のグループがいるので直すように!」と言って、いくつかのグループを呼んで行程表を返した。

 そして、あたしたちのグループが作った行程表を黒板に磁石で貼り、「これくらいのゆとりをもって見学してください。特に返した人たちの行程は、見学時間が全くありません! 通り過ぎるだけはだめです。ちゃんとそこでいろいろなことを感じて、そしてだいじなことをメモしてきてください」と言った。


 みんな「通り過ぎるだけではだめです」のところで、大笑いした。

「ねえねえ、しずくちゃんが見学時間は多めがいいって言ってくれたから、わたしたちのグループの行程表、見本になったよ!」

 と、ここみちゃんが言って、コタくんもひびきくんも「ありがと!」と言った。


 よかった!

 そのとき、ポケットがごそごそして、小さくなったくろが少しだけ顔を出して「ねね、社会科見学は、ボクも行っていいよね!」と言った。

「えっ」と思ったけど、ひびきくんが「また親戚のふりをすればいいんじゃない?」と言って、ここみちゃんも「うん、猫より人型で、『偶然いっしょになった』という感じの方がいいと思う」と言った。

「グループ行動だしさ、みんなそれぞれで動いているから、きっとだいじょうぶだよ」

 ひびきくんが言って、くろは「やったー! ボクも楽しみ、社会科見学っ」と言って、またポケットにもぐった。


 コタくんだけがちょっとぶすっとしていたけど、前みたいに「来るんじゃねえ!」みたいなことは言わなかった。

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